eぶらあぼ 2018.10月号
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37エディタ・グルベローヴァ(ソプラノ)コロラトゥーラの女王、その偉業の集大成を聴く文:岸 純信(オペラ研究家)奇跡のソプラノ エディタ・グルベローヴァ 日本最後のリサイタル10/24(水)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール10/28(日)14:00 サントリーホール問 楽天チケット/コンサート・ドアーズ03-6628-5416 http://www.concertdoors.com/他公演10/16(火)大阪/ザ・シンフォニーホール(キョードーインフォメーション0570-200-888)、10/20(土)埼玉/ソニックシティ(ソニックシティチケットポート048-647-4001)※演目と共演者は公演によって異なります。詳細は各問い合わせ先でご確認ください。 数年前、記者会見の席に現れたエディタ・グルベローヴァは、華やかさと率直さを併せ持つといった、「器の大きいプリマドンナ」であった。オペラ・デビューが1968年というから、今年で実に半世紀、彼女は歌い続けてきたのである。 このとき、筆者は一つ質問を行った。「ベルカント・オペラで数々の業績を打ち立てられた貴女は、作曲家ごとの個性をどのように表現されますか?」。グルベローヴァは熱心に話してくれたが、一点面白かったのは古典派のロッシーニについて。「私の声だと、シャンパンの泡のように軽やかに表現できるのよ」──世紀の大ソプラノはあっさりそう答えて、にこやかに口を閉じたのだ。 この10月、最後の来日公演を行うグルベローヴァ。プログラムには、ロッシーニの《セビリアの理髪師》の名アリア〈今の歌声は〉が入っている。このオペラは、実は、50年前の彼女がデビューを飾った一作でもある。それだけに、グラスの中で湧き出る気泡のごとく、とびきりの声音が爽やかに放たれる瞬間に期待してみたい。 なお、今回はJ.シュトラウスⅡのワルツ「春の声」や、フランスのトマ《ハムレット》の〈狂乱の場〉も歌うとのこと。前者の流麗な音運びとは対照的に、後者の大アリアは、錯乱したヒロインが声で心を切り裂いてゆく難曲である。キャリアの締め括りにこうした大曲を選ぶのも、大芸術家の挑戦心のなせる業。名花の声の輝きがいきなり倍増する瞬間を、今から心待ちにしている。共演はペーター・ヴァレントヴィッチ(指揮・ピアノ)、東京フィル。©lukasbeck新国立劇場 2018/19シーズンオペラ 開幕公演 モーツァルト《魔笛》(新制作)大野和士新体制のスタートを告げる傑作舞台文:室田尚子10/3(水)~10/14(日) 新国立劇場オペラパレス問 新国立劇場ボックスオフィス03-5352-9999 http://www.nntt.jac.go.jp/opera/※公演情報の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 新国立劇場は、2018/19シーズンから大野和士がオペラ芸術監督に就任。「レパートリーの拡充」をはじめとする「5つの柱」を掲げた大野新監督は、新制作を従来の3作から4作へと拡大。その最初の作品に選ばれたのが、ウィリアム・ケントリッジ演出の《魔笛》である。 このプロダクションは、大野が音楽監督を務めていたベルギー王立モネ劇場で2005年に初演、その後ミラノ・スカラ座やエクサンプロヴァンス音楽祭など世界中で上演され大好評を博しているヒット作。ケントリッジはドローイングや短編映像のジャンルで活躍する現代美術家であり、近年はオペラ演出でも高い評価を得ている。大野新監督とケントリッジはリヨン歌劇場の『鼻』(METでも上演された話題作)で共演の経験もあり、新監督が掲げる新国立劇場の新たな柱のひとつである「旬の演出家の招聘」が実現したかたちだ。木炭とパステルで描いた絵をコマ撮りしてアニメーション化、それをプロジェクションに映し出す手法で、幻想的な《魔笛》の世界を描き出す。 今回の指揮は、スカラ座でもこのオペラを振っているローラント・ベーア。管弦楽は東京フィル。キャストには国内外から実力派歌手が集結する。スカラ座でのケントリッジ演出でタミーノを歌ったスティーヴ・ダヴィスリム、パパゲーノを歌う期待の新星アンドレ・シュエンは共に新国立劇場初登場。パミーナは日本を代表するソプラノである林正子、夜の女王は新国でもこの役を歌っている安井陽子が演じる。そのほか、日本人歌手が多数起用されているのも新体制を印象づける。La Flûte enchantée (Die Zauberöte) by W.A.Mozart © Elisabeth Carecchio - Festival d'Aix-en-Provence 2009
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