eぶらあぼ 2018.10月号
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29新しい音楽的家族との室内楽がとても楽しみです取材・文:柴田克彦 写真:藤本史昭 2017年まで8シーズンにわたってニューヨーク・フィルの音楽監督を務めた世界的指揮者、アラン・ギルバートは、18年4月から東京都交響楽団の首席客演指揮者に就任した。同楽団には、7月の就任披露公演に続いて、12月に再び登場。その来日の際、彼はヴィオラを弾いて、都響の首席奏者たちと共にブラームスの2つの弦楽六重奏曲を披露する。 ギルバートは、これまでスケールの大きな名演を展開し、相性の良さを示していた都響と、さらに親密な関係を築くこととなった。 「都響とは、最初からずっとポジティブな関係が続いていました。彼らは何か新しいことをやろうという意欲が強い上に、私の一番良い状態を引き出してくれます。それに私は、日本での音楽的な“ホーム”が欲しいと思っていましたので、ポストのお話をいただいたとき、ぜひ! と喜んでお受けしました。そして都響と新しい音楽的家族になるのですから、そのメンバーと室内楽をやるのは自然な流れだと思います」 今回の六重奏は、ヴァイオリンが共にソロ・コンサートマスターの矢部達哉、四方恭子、ヴィオラがソロ首席奏者の鈴木学、チェロが共に首席奏者の古川展生、田中雅弘というこれ以上ない豪華メンバー。しかも響きの良い浜離宮朝日ホールで行われる、きわめて贅沢な公演だ。 「全員が素晴らしいミュージシャン。矢部さん、四方さん、鈴木さんは、以前からご一緒していますし、チェリストたちも名手ですので、共演するのが楽しみです」 そもそもギルバートは、音楽家としてのスタートが、フィラデルフィア管のヴァイオリン奏者としてだった。それゆえ弦楽器の演奏歴も長い。 「もちろんメインの活動は指揮ですが、今でもヴァイオリンはよく弾いています。特に室内楽を演奏する機会は多く、この取材の後もサンタフェの音楽祭で鈴木学さんとご一緒するように、大きな音楽祭にも度々参加しています。そして、ゲヴァントハウス管、NDRエルプフィル、ロイヤル・ストックホルム・フィル、そしてもちろんニューヨーク・フィルなど、関係の深いオーケストラのメンバーとのアンサンブルは、世界中でずっとやってきました。また、バッハの2本のヴァイオリンのための協奏曲をフランク・ペーター・ツィンマーマンと共演し、オーボエとヴァイオリンのための協奏曲を弾き振りしてもいます。ヴィオラも、グァルネリ四重奏団やズーカーマンと共演するなど、たくさん弾いていますよ」 ブラームスの弦楽六重奏曲は、同形態の代名詞的な作品。その2曲をまとめて聴けるのも、本公演の大きな魅力だ。 「今回の6人で室内楽をやるなら、当然ブラームスがいい。さて1番、2番のどちらにしようか?という話になり、『せっかくの機会なので両方やろう!』と決めました。2曲共に名曲で、私も大好きです。ブラームスの作品、例えば2つのピアノ協奏曲は、初期と晩年に書かれていてタイプが違います。弦楽六重奏曲も同様に、第1番はフレッシュ、第2番は深遠で成熟度を感じさせる音楽です。ところが両曲はいずれも、年齢的に早い時期(1860年、65年完成)の作。それでも対照的な曲を作り出しているのは、本当に凄いと思います」 2曲の中では、哀切な旋律が変奏される第1番の第2楽章が特に有名だが、彼いわく「全部が聴きどころ」とのこと。 「こうした6つのパートで構成されるような曲は、どこかのパートがつまらなくなりがちです。しかしブラームスの2曲は、全てのパートにストーリーがあり、各パートが独立した音楽性を有しています。また彼の作品は、知的な構造と感情的・情緒的な表現が共存している点が素晴らしいですね」 ちなみに11月には、来シーズンから首席指揮者に就任するNDRエルプフィル(旧・ハンブルク北ドイツ放送響)を率いて来日する。日本での活動がいっそう際立つギルバートだが、大友直人と共に創設した「ミュージック・マスターズ・コース・ジャパン」以外で室内楽に参加する機会は、日本ではこれまでほとんどなかったという。「今後もぜひやりたい。次はヴァイオリンで参加するかも」と語る彼。ここはまず、稀有のメンバーによる貴重な六重奏に、じっくりと耳を傾けたい。Informationアラン・ギルバートと都響メンバーが届けるブラームス六重奏曲/ブラームス:弦楽六重奏曲第1番・第2番出演/ヴァイオリン:矢部達哉 四方恭子 ヴィオラ:アラン・ギルバート 鈴木 学 チェロ:古川展生 田中雅弘12/14(金)19:00 浜離宮朝日ホール問 朝日ホールチケットセンター03-3267-9990http://www.asahi-hall.jp/hamarikyu/
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