eぶらあぼ 2018.7月号
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49エフゲニー・キーシン ピアノ・リサイタル熟成と深化、そして究極のピアニズム文:柴田克彦11/6(火)19:00 サントリーホール11/14(水)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp/他公演 11/2(金)横浜みなとみらいホール(045-682-2000)、11/10(土)大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000) キーシンのリサイタルを聴くと、「これ以上完成度の高いピアノ演奏は不可能ではないか」とさえ思えてくる。磨き抜かれた音で奏される、細部まで彫琢され尽くした音楽に、毎回感嘆させられる。だが彼は、10歳で協奏曲デビューした神童時代から、世界トップ級の存在となった40代の現在に至るまで、年を重ねるごとに新たな陰影や詩情を加え、熟成と深化を続けてきた。かくしてそのリサイタルは、最高級のピアノ演奏と真の巨匠への道程を同時体験する稀有の場となる。彼は今秋4年ぶりの来日公演を行う。“究極のピアニストの今”を、聴かずにいられるはずもない。 リサイタルは、前半にベートーヴェンの「ハンマークラヴィーア」ソナタ、後半にラフマニノフの「前奏曲」(op.23とop.32)より10曲を置いた重量級のプログラム。キーシンは2017年、ドイツ・グラモフォンから『ベートーヴェン・リサイタル』をリリースし、全体の絶妙な構築と細部の緻密さが共生した名奏を聴かせている。それゆえフーガや変奏ほか多彩な要素を有する交響的大ソナタ「ハンマークラヴィーア」は必聴。実際同じプロによるロンドン公演を聴いた後藤菜穂子氏は、「自身のピアニズムをさらに極めようとするキーシンの内なる意思の強さが感じられ、聴衆は最初の和音から彼の気迫に圧倒されっぱなしだった」と伝えている。またラフマニノフの前奏曲集は、彼の音楽的源であるロシアン・ピアニズムの宝庫だけに、「骨太の響きと力強いタッチで、一曲一曲のキャラクターをダイナミックに描いた躍動感のある演奏」だったとの由。いずれも生体験への期待は、いやがうえにも膨らむ。©Johann Sebastian Hänel紀尾井ホール 2018年度後半の主催コンサートブルックナー、マーラーや室内楽など多彩な演目が続々と登場文:飯尾洋一問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp/※発売日を含めた各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。 室内楽やリサイタルに最適な音響空間を誇る紀尾井ホール。今年度後半も意欲的な公演が続く。 まず注目したいのは11月8日の「竹澤恭子 ヴァイオリン・リサイタル」。デビュー30周年を迎えた実力者が、10年ぶりに紀尾井ホールに登場する。プログラムはベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第10番と同第9番「クロイツェル」を軸に、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとブロッホの「バール・シェム」の2曲の20世紀音楽を並べた聴きごたえのあるもの。ピアノは長年共演を続けるエドアルド・ストラッビオリ。 12月5日は紀尾井ホール室内管弦楽団とバイエルン放送交響楽団のメンバーの共演で、ブルックナーの交響曲第7番(私的音楽演奏協会版)とマーラー(シェーンベルク編)の「さすらう若人の歌」が演奏される。20世紀初頭のウィーンでシェーンベルクにより開かれた同時代音楽のためのサロンが現代によみがえる。紀尾井ホール室内管弦楽団とバイエルン放送交響楽団でコンサートマスターを務めるアントン・バラホフスキーを中心に、名手たちが集う。「さすらう若人の歌」の独唱はバリトンの萩原潤。 10月10日の「午後の音楽会―明治150年 音楽の花開くⅢ―」では、洋楽と邦楽を一度に聴ける。文楽三味線方の鶴澤寛太郎とチェロの岡本侑也の若手二人が出演。野平一郎の「BUNRAKUの主題によるチェロと太棹三味線のための委嘱新作」(仮題)が話題を呼びそう。2019年2月1日にはベルチャ弦楽四重奏団が招かれ、モーツァルト、バルトーク、メンデルスゾーンの作品を披露する。今もっとも充実するクァルテットだ。アントン・バラホフスキー ©ヒダキトモコ鶴澤寛太郎岡本侑也 ©Shigeto Imuraベルチャ弦楽四重奏団©Marco Borggreve竹澤恭子©松永 学

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