eぶらあぼ 2018.7月号
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36ネルソン・フレイレ(ピアノ)さらなる高みへ―― 巨匠が誘う瞑想と思索の旅路文:江藤光紀8/1(水)19:00 すみだトリフォニーホール問 トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 http://www.triphony.com/ ピアノ・リサイタルの醍醐味は、アーティストの個性をダイレクトに味わえるところにある。音楽に華やかさをまとわせる人、知的に攻めるタイプ、フレッシュな若々しさ——個性の百花繚乱にあっても、ネルソン・フレイレのアダルトな魅力は唯一無二、ますます存在感を増しているのではなかろうか。筆者はつい先日も旅先でその演奏に接することができた。穏やかな微笑を湛えて鍵盤に向かい、落ち着いた足取りで音の伽藍を構築していく。揺るぎない歩みに客席もすっかり納得して、満ち足りた気分に包まれる。経験を積んだアーティストだけが到達しうる境地が、そこにある。 12年ぶりとなった昨年の来日リサイタルに続き、今年も多彩なプログラムですみだトリフォニーに再登場。瞑想的にはじまり、激しく燃え上がるベートーヴェンの「月光ソナタ」に続き、第31番のソナタでは可憐な歌から悠久の時間が姿を現す。ブラームス「4つの小品 op.119」くらい深い省察に満ちた曲でなければ、このはるかなる音の旅を締めくくることはできないだろう。フレイレが私たちをどこへ連れていってくれるのか、考えただけでもワクワクする。 後半はまた違うパレットが楽しめる。今年没後100年を迎えたドビュッシーの「映像」から〈水の反映〉と〈金色の魚〉。後の曲は作曲家が所有していた日本の蒔絵からインスピレーションを受けたものだ。アルベニスの「エボカシオン」(組曲「イベリア」より)の哀愁、遺作「ナバーラ」のリズムに潜むラテンの血が、ブラジル出身のフレイレの中でどう呼び覚まされていくのかにも注目だ。©三浦興一Noism1 × SPAC 劇的舞踊 vol.4 『ROMEO & JULIETS』現代人に問いかける前代未聞の『ロミオとジュリエット』文:乗越たかお7/6(金)~7/8(日) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉7/14(土) 富山/オーバード・ホール 7/21(土)、7/22(日) 静岡芸術劇場9/14(金)~9/16(日) 彩の国さいたま芸術劇場〈大ホール〉問 りゅーとぴあチケット専用ダイヤル025-224-5521(新潟・埼玉) アスネットカウンター076-445-5511(富山) SPACチケットセンター054-202-3399(静岡)http://noism.jp/ 日本で唯一のレジデンシャル・ダンス・カンパニーとして設立15年目を迎えるNoism。芸術監督の金森穣はプロフェッショナルな舞踊家・舞踊団の理念を掲げ、貫き、様々な作品を世に送り出してきた。 中でも「劇的舞踊シリーズ」は、ダンスにおける物語のありかたを根本から問い直してきた連作である。今回はいよいよ『ロミオとジュリエット』に挑む。音楽はバレエでも有名なプロコフィエフだが、なぜかタイトルのジュリエットは複数形なのである。しかも舞台は病院だという。これはいったいどういうことになるのか…。 創作にあたり、金森はいくつかのメモを公開している。恋は悦びと苦しみが同居する矛盾した感情であること。SNS等の普及と精神的な変化・変質で、今の我々は昔なら精神疾病と言われるような精神状態なのではないか。そこでは科学や医療や信仰の意味は読み替えられていき、もはや社会全体が病院の中で暮らしているようなものなのかもしれない。そんな現代において「死に値するほどの何か」を見いだせるのか…等々。古典的名作を扱いながらも、もちろん金森の問いかけは、現代を生きる我々の胸に響くものになるはずだ。 今回は金森自身も11人のダンサーの一人として特別出演する。さらにはSPAC―静岡県舞台芸術センターとガッツリ組んでクリエイションをし、 SPAC所属の俳優8人が出演する。役者の出演はこれまでもあったが、この人数は初めてではないか。衣裳はパリで注目を集める中里唯馬。美術はこれまでもNoismと協働を重ねてきた家具作家の須長檀と建築家の田根剛。金森のさらなる進化に期待が高まる舞台である。Photo:Ryu Endo
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