eぶらあぼ 2018.7月号
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31新しい才能の発掘 フルート界に新しい風が吹く。茨城県つくば市で行われる「つくばフルートコンクール2018」。“J.P.ランパルへのオマージュ”という副題を冠したこの新たなコンクールの実行委員兼審査員長を務めるのは、ランパルの高弟でフルート界のトップランナー・工藤重典だ。テクニック偏重のコンクールのあり方に警鐘を鳴らす。 「コンクールは“競技”なので、必然的に、誰が一番上手いかという競争になる。結果的に、どのコンクールでも勝つのは同じタイプの人です。いわゆるテクニック重視ですね。でも、音楽を観賞するとき、テクニックよりも、その演奏家の個性や音楽性を聴いていると思いませんか? 往年の巨匠たちにはそれがあった。たとえば、音程などあまり気にせずに演奏している巨匠もいたかもしれません。でもその外れた音程すら個性のひとつだった。例えばヴァイオリニストも今はみんな平均律でバランスよく弾く。もちろんピタッと正確に弾くのは素晴らしいことですよ。でも、何か大事なものを失ったような気がする。個性や、そこからくる音楽性。それがちょっと薄くなっていると思うんです。このコンクールでは、そういう個性や音楽性に注目して新しい才能を見つけたいと思っています」 とはいえ、往年の巨匠、たとえばランパルを真似して、「これが私の個性です」なんていうのはダメなのでしょう? と問うと、「どんどんやってもらいたい」と即答。 「たくさん録音を聴いて真似してほしい。本当に真似できるのならば、ね。あのバランス、音楽の運び方、緊張感。でも、だいたい変な真似ばかりするんですよ(笑)。吹けていないのに無理やり同じテンポで吹こうとしたりとか、楽器の構え方とか」 数値化して評価するのが難しい“個性”を、コンクールでどう認めることができるのか。私たち音楽ファンにとっても非常に興味深い問題だ。 「難しいですよね。どうしてもテクニックの差で評価するしかない場合もあるかもしれません。でもそれがあまりに極端になっているのが問題。『テクニック以外は評価できない』のではなく、『評価していない』のが実態なんです」 その傾向を変えるためのこのコンクールの特徴のひとつが、課題曲の選曲にある。 「テクニカルな難曲は入れていません。だって、そんなテクニックを使う曲なんて少ないんですよ。それよりも、もしオーケストラに入ったら、ベートーヴェンやブラームスの交響曲にちょっと出てくるフルートのソロをめちゃくちゃ上手く吹けたほうがいいんです。『ダフニスとクロエ』や『牧神の午後への前奏曲』を幻想的な音色で吹くことのほうが大事でしょう? そういう人に出てきてほしいですね」 本選課題の協奏曲はオーケストラとの共演で “評価基準”を審査員長がここまで明言するコンクールは他にないかもしれない。もうひとつ、本選の協奏曲の審査が、オーケストラ伴奏(特別編成の「つくばシンフォニエッタ」)で行われるのも特徴だ。コンチェルトを演奏する際に、ピアノ相手とオーケストラとでは必要とされる音色がまるで違うという。 「ピアノ伴奏だと大したことなかった人が、オーケストラで聴いたら『うわぁ、良い音だったんだ!』ということが、本当にありますから。協奏曲をピアノで伴奏したのでは、ソリストの個性を殺してしまう場合もあると思います」 個性と音楽性の評価。一般的なコンクールより難しくなりそうな審査を委ねられたのは、工藤も信頼を寄せる、フルート界を牽引する4人の名手たち。酒井秀明、佐久間由美子、清水信貴、白尾彰。その確かな耳と眼で、ぜひ新しい才能を見出してほしい。コンクールは第1次予選から一般公開される。なお、本選前日の12月1日には審査員全員がソリストとして出演するガラ・コンサートも行われ、コンクールに華やぎを添える。 つくばフルートコンクール2018は11月28日(水)〜12月2日(日)、ノバホールで開催。つくば市、および2016年に急逝したヴァイオリニスト若林暢の遺志を継ぐ若林暢音楽財団が共催する。参加および観覧についての詳細はコンクール公式サイトへ。InformationJ.P.ランパルへのオマージュ ̶ つくばフルートコンクール2018●一般部門   【審査日程】参加資格:1983年12月3日以降の出生者(国籍不問)              第1次予選:11/28(水)、11/29(木)各日10:00~ 第2次予選:11/29(木)14:00~ 第3次予選:11/30(金)10:00~             本選:12/2(日)14:00~(つくばシンフォニエッタとの共演) 表彰式:同17:00~ 会場:ノバホール 大ホール        【表彰】第1位:賞状・賞金80万円 第2位:賞状・40万円 第3位賞状・賞金20万円 入選:賞状・賞金5万円         副賞として入賞者にサントリーホール、または東京芸術劇場などでのオーケストラとコンチェルト共演のほか、所沢文化セン         ター ミューズでのコンサート、第10回フルートライブ in Hakuju 他への出演の機会が与えられる。        【参加申込期間】2018年5月1日(火)~10月31日(水)必着●ジュニア部門 【審査日程】参加資格:2000年4月2日以降の出生者(国籍不問)       第1次予選:送付されたCDによる審査 第2次予選:12/1(土)10:00~(ノバホール 小ホール)       本選:12/2(日)10:00~ 表彰式:同17:00~(ノバホール 大ホール)      【表彰】第1位:賞状・賞金10万円 第2位:賞状・賞金5万円 第3位:賞状・賞金3万円 入選:賞状      【参加申込期間】2018年5月1日(火)~8月31日(金)必着★参加要項などの詳細については下記メールにてお問合わせください。問 つくばフルートコンクール実行委員会 info@tsukuba-flute.com コンクール公式ウェブサイト http://tsukuba-flute.com/

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