eぶらあぼ 2018.7月号
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151CDの最重要マーケット、日本 日本は国際的に見ても、CD大国である。少なくとも、クラシックでは、世界で最も重要な市場だと言っていい。あまり知られていないことだが、ユニバーサルやソニーなどのメジャー・レーベルでも、仏ハルモニア・ムンディなどのインディー・レーベルでも、日本の売り上げは、ワールドの3分の1である。一部のレーベルでは、それ以上のところさえある。昔はアメリカが1位だと言われていたが、今は日本。それは、世界の趨勢がストリーミングに移行している一方で、日本人はいまだにモノが好き、という側面とも関係しているだろう。ちなみにほかは、北米とヨーロッパ全域がそれぞれ3割。日本の売り上げが、人口に比して異常に高いことがよく分かる。 レコード文化自体も、ドイツ(売り上げ世界第3位)では、日本ほどこだわりのある買い手は、少ないように思う。日本のお客さんは、何でも知っているし、持っている。フルトヴェングラーもカラヤンも、アバドもラトルも、とりあえず網羅している。もちろんドイツにもそうしたファンはいるが、絶対数ははるかに下回るだろう。そもそもこの国では、コンサートやオペラの切符が比較的安価で(ミュージカルやポップスのコンサートよりもお手頃)、生演奏に接しやすい。そうした状況では、CDよりもライヴの方が重要、という力関係もあるに違いない。 もうひとつ明白なのは、ハイレゾへの関心である。日本では、この言葉が新聞で頻出するなど、“同じ演奏をより良い音で聴きたい”という欲求が強い。SACDに需要があるだけでなく、過去の名盤が新しいリマスタリングで次々と再発される。ところがヨーProfile城所孝吉(きどころ たかよし)1970年生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒。90年代よりドイツ・ベルリンを拠点に音楽評論家として活躍し、『音楽の友』、『レコード芸術』等の雑誌・新聞で執筆する。近年は、音楽関係のコーディネーター、パブリシストとしても活動。ロッパでは、ハイレゾは極めてニッチだ。どれくらいニッチかというと、ビジネスとして成り立たないくらいニッチなのである。もちろんスピーカー、アンプなどの再生機器は、欧州ブランドがよく知られている。しかし、――英国やオランダなどの一部を除き――録音スペックという意味でのハイレゾにこだわる人々は、希少だろう。 それゆえ、多くのレコード会社にとっては、日本のお客さんほどありがたいものはないのである。どんなに通向けのものでも、とりあえず買ってくれるだけでなく、良い音で再発されれば、買い替えてくれる。コレクター好みの装丁にすれば、その意図さえ分かってくれる。正直言って、多くのレーベルが頼みの綱にしていて、“日本で売れるから”という理由で、SACDハイブリッド盤等を出すのである。ベルリン・フィルの自主レーベルなども、まさにそれ。最近彼らから聞いたところでは、日本から“紙スリップケースだと盤面に傷がつくので、薄ビニールの袋に入れてほしい”と言われ、実際そうしたという。「そんなの、ドイツで気にする人はひとりもいません。でも、そこまで我々の商品を大切に思って、一生懸命聴いてくれるなら、本当にありがたい。だから、喜んで対応しますよ!」城所孝吉 No.24連載

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