eぶらあぼ 2018.5月号
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186SACDSACDCDCD遠望 ヘルダリーンの詩による歌曲/長島剛子&梅本実ハイドン:交響曲集 Vol.3/飯森範親&日本センチュリー響ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス/鈴木雅明&バッハ・コレギウム・ジャパン[横笛]赤尾三千子の世界 乙女と若武者のためのレクイエム 新版 水炎伝説―義経の笛ロイター:フリードリヒ・ヘルダリーンの詩による3つの歌曲/フォルトナー:沈みゆくがよい、美しき太陽よ/ブリテン:6つのヘルダリーン断章/リゲティ:夏/リーム:人生の半ば/ウルマン:夕べの幻想/ヒンデミット:断章、夕べの幻想/ミュラー=ジーメンス:遠望長島剛子(ソプラノ)梅本実(ピアノ)ハイドン:交響曲第96番「奇蹟」・第18番・第99番・第30番「アレルヤ」飯森範親(指揮)日本センチュリー交響楽団ベートーヴェン:ミサ・ソレムニス ニ長調鈴木雅明(指揮) アン=ヘレン・モーエン(ソプラノ) ロクサーナ・コンスタンティネスク(アルト) ジェイムズ・ギルクリスト(テノール) ベンジャミン・べヴァン(バス) 寺神戸亮(ヴァイオリン独奏) バッハ・コレギウム・ジャパン石井眞木 松下功 赤尾三千子(台本・構成・編曲:赤尾三千子):新版 水炎伝説/赤尾三千子 佐藤聰明 他(構成・編曲:赤尾三千子):薄墨―義経の笛赤尾三千子(横笛/歌) 田中之雄(琵琶)井上道義(指揮) アンサンブル・レジェンド パーカッショングループ72録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9014 ¥2800+税収録:2015年11月&16年2月、いずみホール(ライヴ)オクタヴィア・レコードOVCL-00662 ¥3200+税BIS/キングインターナショナルBIS SA2321 ¥オープン収録:2016年1月、川口リリア音楽ホール(ライヴ)他コジマ録音ALCD-117 ¥2800+税世紀末から20世紀の歌曲をテーマにリサイタルを重ね、近年ディスクの発表も頻繁に行う長島剛子・梅本実リートデュオ。今回のディスクはヘーゲルやベートーヴェンと同時代の詩人フリードリヒ・ヘルダリーン(1770〜1843)の詩に付曲された歌曲を集めたもので、深い精神性に満ちたこれらの作品で、長島は色彩豊かに変化する美声を駆使して詩の世界観を気高く伝える。とりわけミュラー=ジーメンスによる「遠望」における内なる対話の表現が素晴らしい。梅本のピアノは時に劇的に長島を急き立てるかと思えば、声の響きを拡張するように寄り添い、絶妙なバランスでアンサンブルを構築している。(長井進之介)飯森範親&日本センチュリー響によるハイドン第3弾。交響曲第99番はハイドンが弟子のベートーヴェンに筆写させた自信作。傑作に相応しい充実した演奏で、トゥッティのエネルギーの爆発は目を見張るばかりだ。序奏の半音階進行が全曲の各所に現れる緻密な構成も解りやすく聴かせる。緩徐楽章の木管の絡みも美しく、終楽章の対位法楽句やウィット感の表出も楽しい。第96番「奇蹟」もノンビブラートの透明な響きがきれいで爽やかだ。初期の第18番では第2楽章が生き生きと弾んで秀逸。第30番「アレルヤ」も音色対比が新鮮で聴きごたえがある。 (横原千史)まさに「満を持して」の感がある。鈴木雅明&BCJによる、ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」。“巨大な作品”との先入観を覆す、風通しが良く、繊細な仕上がりだ。かたや、横への流れが抜群で、この作品独特の楽想が交錯しながら色調を変え、畳み掛けてゆく興奮も、ダイレクトに伝わってくる。そして、声楽と器楽が共に音楽的な理想に向かって突き進んでゆく一体感。さらに、バッハなど作曲者にとっての“過去”や、メンデルスゾーンなど“未来”までを想起させる、巧みな音楽創り。ソリストも含め、共に名演を積み重ねて来た仲間だからこそ可能な、新たなベートーヴェン像が描き出された。(笹田和人)赤尾三千子は70年代から多くの作曲家とコラボしつつ横笛の現代的な可能性を探ってきた。新版「水炎伝説」は石井眞木のオリジナル作品に松下功作品などを加えて編みなおしたもの。西洋楽器群が織りなす緻密なテクスチュアに、息の強度や揺らぎで一人対峙する姿がまぶしい。古寺に伝わる義経の龍笛「薄墨」は8世紀以上の時を超えて命を吹き込まれ、録音会場となった大谷資料館の地下石窟の空間を鋭く、厳しく切り裂きながら駆ける。アルバムの最後で篠笛が素朴なメロディを奏でると、残響が楽器を包み込み、それまでの緊張が一気にほどけた。横笛とは場を操る術なのだ、と合点がいった。 (江藤光紀)
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