eぶらあぼ 2018.2月号
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56トリフォニーホール・グレイト・ピアニスト・シリーズ2017/18ピョートル・アンデルシェフスキ ピアノ・リサイタル満を持してオール・バッハ・プログラムに挑む文:伊熊よし子3/17(土)18:00 すみだトリフォニーホール問 トリフォニーホールチケットセンター03-5608-1212 http://www.triphony.com/ ピョートル・アンデルシェフスキは完璧主義者である。プログラムも現在弾きたい作品に限定し、全身全霊を傾ける。いまもっとも弾きたいのはJ.S.バッハで、これまでの来日公演では「イギリス組曲」第3番、第6番を披露。これらは彼の精神性が色濃く投影され、個性的な奏法と表現が前面に押し出された演奏だった。ここに今回は「平均律クラヴィーア曲集」第2巻からの6曲が加わるプログラム構成である。 アンデルシェフスキのバッハで特に印象的なのは装飾音。「イギリス組曲」第3番の「前奏曲」「サラバンド」においてそれは顕著で、装飾音が多用され、内声の響きを際立たせるため、あたかも自身が作曲したかのような曲想が展開される。 「バッハの内声はすべての声部の関連性において非常に重要です。旋律や和声や対位法などを縦の線で見るか横の線で見るか、自分がどのようにそれらを解釈していくかで演奏はまるで異なってくる。私がバッハの音楽に目覚めたのは19歳のころ。規模の大きな声楽作品に魅了されていて、『ロ短調ミサ』をよく聴いていました。フーガに惹かれていたのです。そこからバッハの対位法に興味が移り、ピアノ作品と対峙するようになりました。バッハが対位法をどのように探求し、進化させていくかに興味津々で、自分がそれを楽譜から読み取ることに喜びを抱きました」 インタビュー時にこう答えていたアンデルシェフスキ。満を持したオール・バッハ・プログラムで、洞察力に富んだバッハが聴き手の心を震わせるに違いない。©MG de Saint Venant licenced to Virgin Classics下野竜也(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団創意あふれるプログラムはまさに刺激的!文:飯尾洋一第698回 東京定期演奏会3/2(金)19:00、3/3(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/ オーケストラのコンサートで、これほど刺激的なプログラムに出会えるのはまれなこと。下野竜也指揮による日本フィル第698回東京定期演奏会に並んだのは、スッペの喜歌劇《詩人と農夫》序曲、ユン・イサンのチェロ協奏曲(独奏はルイジ・ピオヴァノ)、ジェイムズ・マクミランの「イゾベル・ゴーディの告白」、そしてブルックナー(スクロヴァチェフスキ編曲)の弦楽五重奏曲より「アダージョ」。さて、ここからどんなメッセージが読み取れるだろうか。 唯一の有名曲は《詩人と農夫》序曲。この陽気な序曲ではチェロがのびやかなソロを披露するが、続くチェロ協奏曲ではチェロが苦悶に満ちた表情で別の世界を描くことになる。ユン・イサンは韓国に生まれドイツに渡り、韓国中央情報部にスパイ容疑で拉致されるも、釈放されて西ドイツに帰化した作曲家。このチェロ協奏曲は自伝的作品といわれる。 現代の作曲家マクミランが「イゾベル・ゴーディの告白」で題材にしたのは、17世紀スコットランドの魔女イゾベル・ゴーディ。魔女狩りの時代に自ら出頭して魔女であることを告白した女性である。楽曲では平安と苦悶が拮抗する。おしまいはブルックナーの室内楽曲をスクロヴァチェフスキが弦楽合奏にスケールアップした「アダージョ」。 祈り、苦しみ、戦い、浄化。さまざまなキーワードが連想される。全体がひとつの作品であるかのような創意あふれるプログラムが実現する。ルイジ・ピオヴァノ ©Laurence Heym下野竜也 ©山口 敦

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