eぶらあぼ 2017.11月号
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70小倉貴久子のモーツァルトのクラヴィーアのある部屋第30回記念公演~クラヴィーアコンチェルト~11/3(金・祝)13:30 第一生命ホール問 メヌエット・デア・フリューゲル048-688-4921http://kikuko-mdf.com/CD『アルルの女~プレイエル・ピアノによる ビゼー ピアノ作品集~/小倉貴久子』コジマ録音 ALCD-1169¥2800+税12/7(木)発売小倉貴久子(フォルテピアノ)作曲家と同時代の楽器でビゼーのピアノ作品集を録音取材・文:宮本 明Interview フォルテピアノ奏者の小倉貴久子がジョルジュ・ビゼーのピアノ作品集『アルルの女』をリリースする。ピアノのレパートリーとしては、ややレアな作曲家。なぜビゼーを? 「実は私も、FM番組のテーマ曲で流れていた『ラインの歌』の一部を知っていたぐらい。でもその『ラインの歌』を全曲弾いてみたら、とても素敵なんです。メロディの美しさ、親しみやすさ。他の曲も調べてみたらなかなか魅力的で、しかも『アルルの女』の作曲家自身によるピアノ編曲版がある。これはもっと知られるべきだと。ビゼーはピアノの名手だったので、やさしい書法でも非常に効果的に書かれている一方で、何気ない、簡単そうに聴こえる部分が意外に難しかったりして、彼の高度な演奏技術を感じさせます」 おりしも、自身の所有する1848年製のプレイエル・ピアノの魅力を引き出せるようなCDを作りたいと考えていたところにもはまった。ビゼーのピアノ曲がこれまで注目されてこなかったのは、楽器の問題でもあるようだ。 「ビゼーが聴いていた、当時のピアノの響きで弾いてこそ魅力が出ると思います。19世紀半ばは、エラールがダブル・エスケープメントを発明して、楽器が現代のピアノに近づいてくる時代ですけれども、一方でこのプレイエルはシングル・アクション。構造がシンプルなので、繊細な細かい指のニュアンスがハンマーに伝わりやすいという長所があります。こまやかな心のひだを描くような表現に向いているんですね。また、音域の違いによる音色の個性が豊かで、ある意味オーケストラ的。『アルルの女』などまさに、音量でなく、音色の多彩さが管弦楽的に響きます」 たしかに、モダン楽器の演奏と比べてみると、表現の、そして音量のダイナミズムの違いが明らかで、まったく別の曲のようにさえ聴こえてくる。注目の一枚だ。 11月には、彼女が2012年からほぼ2ヵ月おきに定期的に続けているシリーズ・コンサート『モーツァルトのクラヴィーアのある部屋』が30回の節目を迎える。モーツァルトと、モーツァルトに関わりのあるゲスト作曲家の作品を並べて弾く企画。今回のゲストはヨハン・クリスティアン・バッハ。 「モーツァルトが最も敬愛していた作曲家。彼らの作品にはキャラクター的にたいへん近いものを感じます」 モーツァルト愛用のA.ヴァルターの楽器(レプリカ)で弾く最晩年の協奏曲第27番など、コンサートマスター桐山建志ら、そうそうたる古楽のスペシャリストたちが顔を揃えた特別編成のオーケストラとの共演は珠玉。12/7(木)19:00 王子ホール問 東音企画03-3944-1581 http://rintaro-akamatsu.com/帰国10周年 赤松林太郎 ピアノリサイタル 音がこだまする時前進し続ける豪腕ピアニストのパワーが全開!文:飯田有抄 稀に見る勢いで前進し続けるピアニスト、赤松林太郎。外交官を志していたが、2000年クララ・シューマン国際ピアノコンクールで第3位(1位なし)に入賞したのをきっかけにピアノの道へと突き進んだ。尊敬するフランス・クリダのもとパリのエコール・ノルマル音楽院で研鑽を積み、ヨーロッパのコンクールで上位入賞を重ね、07年に帰国。以来、知られざる秘曲を含む膨大なレパートリーを開拓し、学生指導やコンクール審査で国内外を飛び回るなど、精力的な活動を展開してきた。 帰国から10年、濃密な年月を過ごしてきた赤松が節目としての記念リサイタルを行う。聴かせるのは、ペルトとベートーヴェンの変奏曲、スクリャービン晩年の作「炎に向かって」、ドビュッシーの前奏曲集からの4曲、ラフマニノフのソナタ第2番(1931年版)。繊細さ、豪快さ、妖艶な表現など、赤松の豊かなパレットから様々な色彩が溢れ出す一夜となるだろう。

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