eぶらあぼ 2017.11月号
41/203

38川瀬賢太郎(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団俊英たちが紡ぐ、北国の哀愁のロマン文:柴田克彦第311回 定期演奏会 11/11(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ どこか日本人の琴線を刺激するスコットランドの民謡や風物…クラシック音楽を通してそれを体感できるのが、東京シティ・フィルの11月定期だ。 主力は、ドイツ・ロマン派の作曲家が、スコットランドにインスパイアされて生み出した2つの名作、メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」と、ブルッフの「スコットランド幻想曲」である。前者は、初めてイギリスに渡った20歳の作曲者が、当地の古都エディンバラの自然や風物から着想を得た作品。だが完成は33歳時ゆえに、美旋律とスケール感を併せ持つ円熟の名品となった。後者は、当地の歌の曲集に魅了されたブルッフが、複数の民謡を用いて作曲したヴァイオリン協奏曲風の音楽。中でも有名な第3楽章の切ないメロディは、万人の胸を打つ。さらに1曲目は、通常浮かぶ「フィンガルの洞窟」ではなく、初のイギリス旅行の前年にメンデルスゾーンが書いた序曲「静かな海と楽しい航海」。これまさにスコットランド行きの前段にして、そこに向かう海路を示唆したハイセンスな選曲だ。 指揮は、ポストを持つ神奈川フィルや名古屋フィルの活動も快調な川瀬賢太郎。このところ高関健のもとで充実顕著なシティ・フィルを、活力と推進力漲る川瀬がいかにリードするか? が大いに注目される。ヴァイオリン独奏は郷古廉。堅牢な技量と意志の強い音楽で孤高の存在感を示す彼の表現も、実に楽しみだ。加えて、ブルッフ作品で重要なハープを、期待の俊英・平野花子が受け持つのも魅力。30代の指揮者と20代のソリストがおくる北国の爽やかな空気を、全身で感じたい。郷古 廉 ©Hisao Suzukiポール・ルイス(ピアノ)ドイツ音楽の深奥とユーモアを自在に表現文:江藤光紀マーク・パドモア&ポール・ルイス 11/22(水)、11/24(金)各日19:00ポール・ルイス HBB PROJECT Vol.1 11/29(水)19:00王子ホール問 王子ホールチケットセンター03-3567-9990 http://www.ojihall.jp/ 骨のある企画で好事家をうならせてきたイギリスのピアニスト、ポール・ルイスが、この晩秋も凝った3プログラムを引っ提げ王子ホールに帰ってくる。テノールのマーク・パドモアと共演した2014年のシューベルト三大歌曲集は高い評価を得たが、今回ルイスは盟友パドモアと共に、2回のリサイタルでリートの歴史を一望してみせる。 11月22日は珍しいハイドンの歌曲で始まり、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトと時代を下って、ピアノが重要な役割を果たすシューマンの連作歌曲「詩人の恋」へとたどり着く。24日はハイネに基づくシューマンの「リーダークライス」で前回の流れを引き受けながら、さらにブラームスへと時代を下り、ひとたびシューベルトへ戻った後、リート黄金期の最後の輝きとも言うべきヴォルフで締める。繊細な表現が要求されるリートだが、知性派二人は多彩なアプローチで詩の行間までも鮮やかに浮かびあがらせるだろう。ヴォルフは酒をテーマにした歌が選ばれているので、酔いの表現にも注目したい。 29日には、3年がかり全4回からなるソロの新企画『HBB PROJECT』がスタートする。ユーモアのセンス溢れるハイドン(Haydn)と真面目で内向的なブラームス(Brahms)の後期作品を対比させ、双方の性格を併せ持ったベートーヴェン(Beethoven)のバガテルなどを絡め全体をまとめるというのが基本コンセプト。第1回はハイドン「ソナタ第50番」で始まり、ベートーヴェン「6つのバガテル op.126」を経てブラームス「6つの小品 op.118」と深まりをみせた後、再びハイドン「ソナタ第40番」に戻るという趣向だ。左:マーク・パドモア 右:ポール・ルイス ©Marco Borggreve平野花子 ©Ai Ueda川瀬賢太郎 ©Yoshinori Kurosawa

元のページ  ../index.html#41

このブックを見る