eぶらあぼ 2017.11月号
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184SACDCDエリック・サティ 新・ピアノ作品集/高橋悠治シューマン:ファンタジー/仲道郁代サティ:ジムノペディ第1番~第3番、1886年の3つの歌、グノシエンヌ第1番~第7番、サラバンド第1番~第3番、ノクチュルヌ第1番~第6番、ジュ・トゥ・ヴ高橋悠治(ピアノ)シューマン:ロマンスop.28-2、交響的練習曲op.13、幻想曲op.17仲道郁代(ピアノ)日本コロムビアCOCQ-85373 ¥3000+税ソニーミュージックSICC19008 ¥3000+税最近の高橋悠治の演奏には、“胸襟を開く”とでも表現したくなるおおらかさが漂っている。音楽は淡々と流れる情感の揺らぎのバロメーターのように立ち現れるが、鼻歌を歌うような平常心の先にある種の風景が次第に開かれていくのだ。このサティの新録音もそうした心境を表現した一枚と聴いた。遅めのテンポ、無造作な手つきで旋律線をなぞっていくのだが、あっという間にツボを掘り当てて深く朗々と歌う。メロディーはたっぷりとした謡(うたい)となり、それを延々と積み重ねるうちに、もっと大きな何ものかへの気づきに達する。長年弾きこんできた高橋ならではの、不思議な魅力を湛えたサティだ。(江藤光紀)仲道郁代の演奏家人生の入り口、デビューとなるリサイタルとアルバムで選ばれたのはシューマンだったという。デビュー30周年の当盤では改めてそこに立ち戻り、意外にも初録音という「幻想曲」「交響的練習曲」に臨んだ。あえて堅固な構成感と骨太なタッチをベースにして、シューマンがベートーヴェン以降の流れにいることを明確に意識させる。しかし音楽は固くはならず、作品から自ずとロマンの薫りがたちのぼる。「幻想曲」の繊細で自然な佇まいから浮かぶ穏やかな感動も素敵で、冒頭の名品「ロマンス」の渋い光沢と滋味は胸を打つ。仲道の円熟と至芸が凝縮された一枚。  (林 昌英)CDピアノ・トリオ シューマン・ドビュッシー・ブラームス/和波孝 &岩崎 洸&土屋美寧子シューマン:ピアノ三重奏曲第1番/ドビュッシー:ピアノ三重奏曲/ブラームス:同第3番和波孝 (ヴァイオリン)岩崎 洸(チェロ)土屋美寧子(ピアノ)ナミ・レコードWWCC-7845 ¥2500+税冒頭に収められたシューマンの第1音から、濃厚なロマンティシズムと共に、「音楽をする喜び」が溢れ出てくるよう。このトリオは、もともとデュオで活動していた和波と土屋に、岩崎が合流する形で始まった。スタートから10余年、「誰かが細かいところにこだわると、誰かが大きな視点で見ようという、繊細さと大らかさのバランスがちょうどいい」と土屋。対旋律にあっても互いに耳を傾け合い、ユニゾンでは同じうねりを伴う。ただ単に“合わせる”ことを超越し、もはや音楽への感性を共有。この3人でしか構築し得ぬ響きの世界が形創られていることを、当盤は強く印象付ける。 (寺西 肇)CD小さなモーツァルト/岩井美子モーツァルト:メヌエット ト長調K.1(1e)、同ヘ長調K.2、アレグロ 変ロ長調K.3、ピアノ・ソナタ第10番K.330(300h)、同第12番K.332(300k)、デュポールの主題による9つの変奏曲K.573、アンダンティーノK.236(588b) 他岩井美子(ピアノ)マイスター・ミュージックMM-4018 ¥3000+税モーツァルトやクララ・シューマンのピアノ作品をレコーディングしてきたスイス在住のピアニスト岩井美子。彼女のファースト・アルバムが21年ぶりに再編集・リマスター盤として登場した。「小さなモーツァルト」と題されたこのアルバムには、K.1〜5までのモーツァルト最初期の作品、広く親しまれている第10番・12番のピアノ・ソナタ、また晩年のアンダンティーノや変奏曲などが収められている。岩井の朗らかで丹念な演奏からは、天真爛漫な神童の姿が眼に浮かぶようだ。その天才性と、決して色褪せることのない普遍的な作品の美を今に伝えるアルバムだ。 (飯田有抄)

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