eぶらあぼ 2017.11月号
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179「オーケストラ・アカデミー」とは ヨーロッパのオーケストラには、「オーケストラ・アカデミー」を擁しているところが多い。これはどういうシステムかというと、音大卒業者を公募し、レッスンするだけでなく、演奏会に参加させて実地経験を積ませる、というものである。一般には、1972年にカラヤンがベルリン・フィルで設立したのがはしり、と言われている。今では、「楽器を勉強する学生ならば、コンクールで入賞するよりも、アカデミーに入った方がいい」と言われるほど、重要な養成機関となっている。ソリストではなく、オケマンを目指す人ならば、なおさらである。 期間中(通常2年)には、毎週2時間ほど、首席奏者によるレッスンがあるが、面白いのは給料が出ること(大体500〜1000ユーロくらい)。ベルリン・フィルでは「奨学金」と呼んでいるが、より率直に言えば、エキストラとして舞台に乗ることに対しての報酬である。通常、オーケストラでは、メンバーには乗り番降り番があり、編成に必要な人数が常に揃うわけではない。大規模な曲ならば、欠員の可能性は俄然高くなる。それゆえエキストラが必要になるが、アカデミー生は、現実には“エキストラのプール”なのである。多くの場合、契約書には「月に最大何回まで本番に乗る」などの条件が掲げられている。オケとしては、他から奏者を借りてくる場合には、かなりのお金が掛かるため、アカデミー生が弾いてくれれば、経済的に助かるのである。 とは言うものの、才能ある若手が一流オケの本番に乗って弾くことほど、よい勉強になることはない。Profile城所孝吉(きどころ たかよし)1970年生まれ。早稲田大学第一文学部独文専修卒。90年代よりドイツ・ベルリンを拠点に音楽評論家として活躍し、『音楽の友』、『レコード芸術』等の雑誌・新聞で執筆する。近年は、音楽関係のコーディネーター、パブリシストとしても活動。とりわけベルリン・フィルやバイエルン放送響ならば、世界最高レベルの経験が積めるわけで、自信にもつながるだろう。そして、卒業後そのオケに入れるチャンスもずっと増す。通常オケの側では、アカデミー生に見込みがあれば、「ぜひとも団員になってもらいたい」と考えている。「手間暇かけて育てたのだから」という以上に、生徒が自分たちのスタイル、音色、弾き方を吸収してくれれば、メンバーとして自然と適任だからである。実際ベルリン・フィルでは、全団員の3分の1がアカデミー出身だという。それゆえ、まずここに入るのが、ベルリン・フィルに入れる可能性を上げると言える。また、たとえ入団できなくても、「ベルリン・フィルのアカデミーにいた」というだけで、他のオケのオーディションに呼んでもらえる。いずれにしても、ものすごく得なのだ。 しかし、アカデミーのオーディション自体が、狭き門という側面もある。ひとつの席に数十人の応募があり、書類審査後の選考会も、1日では済まないことがしばしば。しかし、トライしない手はない。多くのオケでは、専用ウェブサイトでオーディション日程を発表しており、外国からでも応募を認めている。本誌を読む日本の学生の方々も、応募してみては?城所孝吉 No.16連載

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