eぶらあぼ 2017.11月号
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JXTGホールディングスhttp://www.hd.jxtg-group.co.jp/左より)荒井英治、戸澤哲夫、中村恵理、小野富士、藤森亮一Photo:M.Otsuka/Tokyo MDE 2017年度のJXTG音楽賞および児童文化賞の贈賞式が9月28日に都内で行われた。音楽賞洋楽部門本賞はモルゴーア・クァルテット[荒井英治、戸澤哲夫(以上ヴァイオリン)、小野富士(ヴィオラ)、藤森亮一(チェロ)]、同部門奨励賞は中村恵理(ソプラノ)が受賞した。 JXTG音楽賞は、日本の音楽文化の発展・向上に大きく貢献した個人または団体に贈られる賞で、1971年に創設。昨年までは「東燃ゼネラル音楽賞」として実施されていたが、2017年4月のJXグループと東燃ゼネラルグループの経営統合を機に名称変更された。四半世紀を経てなお進化するクァルテット ショスタコーヴィチの連続演奏会やプログレッシヴ・ロックのアルバムなど、ユニークな活動で唯一無二の存在感を放ってきたモルゴーア・クァルテット。今回は結成25周年に花を添える受賞となった。結成当時は、“オーケストラ・プレイヤーの寄せ集めクァルテット”と評されたこともあったというが、延べ45回の定期演奏会で、(記念演奏会を行った1回を除き)1曲も重複のないプログラムを組んできたという事実は、彼らのゆるぎない信念と努力を物語る。「世の中に媚を売らずに、やりたい曲を演奏してきたから、長く続けてこられたのかもしれない」と振り返るのはチェロの藤森。プログレッシヴ・ロックの編曲を手がけ、プロデューサー的存在である荒井は「4人が各々のオーケストラで異なる経験をしているので、それを集めたところにクァルテットの音楽があればいい」と語る。まだまだ演奏したい曲がたくさんあるという。古典からロックまで、留まるところを知らない彼らのベクトルが、今後どのような方向へ向かっていくのか注目される。音楽が導いてくれた世界の舞台 中村は、08年英国コヴェント・ガーデン王立歌劇場にデビュー。10年から16年までバイエルン国立歌劇場の専属ソリストを務め、ウィーン国立歌劇場や南米・中東のステージにも立つなど、文字通り世界を舞台に活躍する歌姫となった。バイエルンで何度も共演したキリル・ペトレンコについては「要求されることは多いけれど、欲しいときに目でキューをくれるなど、とても信頼できる指揮者」と語る。一方、「チリでは催涙ガスの中をくぐり抜けて劇場に行った」という仰天エピソードも。 「様々な得がたい経験ができたのは、音楽が私にもたらしてくれた素晴らしい贈りもの。賞をいただいて、これからは自分のことだけでなく、音楽を通じてどのように社会に貢献できるか、ということにも目を向けなければと、気持ちを新たにしました」 声質も徐々に変わりつつあるそうだが、「プリマドンナ的な役を、できるうちに歌いたいと思って、今は《椿姫》や《蝶々夫人》を勉強し始めている」という。前衛的な演出も多い昨今、オペラ歌手ならではの苦労もあるようで、「台湾での《ラインの黄金》では、プールに潜ってシンクロナイズド・スイミングみたいに脚を上げたこともあるんですよ!」とのこと。その思い出を楽しそうに語る姿からは、着実にキャリアを積み重ねてきた歌い手としての自負と手応えが感じられた。モルゴーア・クァルテットと中村恵理が第47回「JXTG音楽賞」を受賞取材・文:杉村 泉178

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