eぶらあぼ 2017.10月号
63/231
60左:ハルトムート・ヘル 右:白井光子 2011年11月第一生命ホール公演にて ©大窪道治室内楽の魅力 白井光子&ハルトムート・ヘル ~女の愛と生涯~10/28(土)15:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 http://www.triton-arts.net/白井光子(メゾソプラノ)デュオ結成45年目で目指す新しいアプローチ取材・文:長井進之介Interview 歌手とピアニストが一体となった最小の室内楽「リート・デュオ」の先駆者として、現在も第一線を駆け抜ける白井光子とハルトムート・ヘル。世界各地での演奏・教育活動によって多くの歌手たちにドイツリートの正当な伝統を伝えている。デュオ結成45周年を迎える大切な年のリサイタルに選ばれた曲目は、彼女たちの最重要レパートリーともいえるシューマンとヴォルフ。前半の核となるのはシューマン「女の愛と生涯」だ。 「これまでの活動を振り返る意味でも、いま『女の愛と生涯』を演奏することにとても意味があるのではないかと思い選びました。この作品では登場人物の“現在”が描かれているので、振り返るような形で解釈し、演奏することはできません。どうしても彼女の体験から遠ざかってしまいますから。ですから、遠くから登場人物を“見る”のではなく、“なる”ことで、実体験としてこの歌に向き合うつもりです」 後半に並ぶヴォルフは、近年では演奏される機会が増えているが、魅力的に聴かせるのは非常に難しい作曲家のひとりだ。 「ヴォルフの作品は言葉とひたすらに密接で、言葉の陰影を理解することも必要です。もちろん、どの作曲家もそうですが、ヴォルフは特に詩を何度も読み込んで書いたということが伝わってきます。その点で私は幸運でした。パートナーのヘルは文学を愛していて、言葉の裏にあるものを深く読み解くことができ、その“色”まで感じ取ることができる人ですから」 ドイツ、オーストリアの作曲家の広範な作品をレパートリーとする白井とヘル。膨大なレパートリーからその作品の本質を導き出し演奏することは本当に大変なことだが、それを実現してきた秘訣はどこにあるのだろう。 「その作曲家の作品に流れているエネルギーを受け止めることですね。音を出した瞬間、またその出したものが消えていく瞬間をどう捉えるかで全く演奏は変わります。さらに演奏する側が作品に合わせて変わることも必要です。自分の持つテクニックでアプローチするのでなく、音楽からどう演奏するかを教えてもらう、という感覚が重要なのです」 2人の演奏を聴くと、リートというジャンルが言葉と音楽が深く結びついたものだということを強く感じることができる。45年という時間を共にし、またこれからもドイツリートの本質を伝え続けてくれるデュオの、新しいアプローチによるシューマンとヴォルフをぜひ堪能したい。菅すがはら原 淳 パーカッション&マリンバ コンサート新作と名曲で楽しむ多彩で迫力あるサウンド文:林 昌英 38年にわたり読売日本交響楽団で主に首席ティンパニ奏者を務めた菅原淳。同団の名物奏者として親しまれ、打楽器界を牽引してきた第一人者としての功績も計り知れない。その菅原が、信頼厚い仲間や教え子たちと共に、3部構成の多彩なプログラムで、パーカッションの面白さを伝えるコンサートを開催する。 第1部は菅原の委嘱による、北爪道夫と福士則夫のパーカッションソロ用の新作2曲。両作曲者とも1940年代生まれで、菅原との付き合いも長い。12/28(木)16:00 ヤマハホール問 オレンジノート090-3239-5492http://www.orange-note.com/奏者の個性と打楽器の魅力が引き出される刺激的な体験になるだろう。第2部は一転してマリンバ名曲集。7歳からマリンバに触れてきた菅原が「60年間での私の思い出アルバム」と語る小品集で、森浩司のピアノと共に、楽器への愛情と名技を存分に披露する。第3部は菅原自身の編曲で「ウエストサイド物語」より5つのシーンを、6人のアンサンブルで。「美しいマリンバの響きと多彩なパーカッションの音色、そして迫力あるサウンドをお楽しみ下さい」と意気込む。
元のページ
../index.html#63