eぶらあぼ 2017.10月号
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54ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団聴衆を包み込む雄大なブルックナーに出会う文:柴田克彦第695回 東京定期演奏会11/17(金)19:00、11/18(土)14:00 サントリーホール問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/ 昨年9月に日本フィルの首席指揮者に就任したインキネンは、最初のシーズンの定期演奏会で立派な成果をあげた。今年1月のブルックナーの交響曲第8番、4月のブラームス・ツィクルス、5月の《ラインの黄金》で密度の濃い演奏を展開。聴く者に確かな手応えを与えた。しかも彼は、2015年からプラハ響、今秋からザールブリュッケン・カイザースラウテルン・ドイツ放送フィルの首席指揮者など、次々と重要ポストに就任している。しからば当然、日本フィルでの2シーズン目にさらなる期待が寄せられる。 最初の登場は11月、メインはブルックナーの交響曲第5番だ。インキネンの—特に独墺ものの—特徴は、ゆったりしたインテンポで、一つひとつの音やフレーズを緻密かつレガートに表出した、“悠然としてコクのある”音楽。これがブルックナーに適合するのは言うまでもない。実際彼は15年の7番、今年の8番という“本丸的”な交響曲で、その特徴を生かした名演を残している。今回の5番は、雄大かつ質朴な曲想、オルガン的な響き、対位法の妙、たびたびの全休止…等々、同作曲家の本質が最も表に出た作品。荘厳な大河にして、温かさや叙情性をも湛えたブルックナーを聴かせるインキネンが、本作をいかに表現し、日本フィルからいかなる響きを引き出すか? 大いに注目される。なお1曲目は、昨年亡くなったフィンランドの巨匠ラウタヴァーラの遺作「In the Beginning」のアジア初演。自国ものへの共感に充ちた演奏で同曲を知ることができるのも嬉しい。 コンビ2年目のスタートは、見逃すことができない“勝負公演”だ。ピエタリ・インキネン ©堀田力丸愛知県芸術劇場・東京文化会館・iichiko総合文化センター・東京二期会・読売日本交響楽団・名古屋フィルハーモニー交響楽団 共同制作 グラインドボーン音楽祭との提携公演R.シュトラウス:《ばらの騎士》 話題のオペラがいよいよ愛知で上演!文:岸 純信(オペラ研究家)10/28(土)、10/29(日)各日14:00 愛知県芸術劇場 大ホール問 愛知県芸術劇場052-971-5609 http://www.aac.pref.aichi.jp/gekijyo/syusai/他公演11/5(日) iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ(097-533-4004) 7月に東京二期会が上演した《ばらの騎士》では、邦人勢の好調な喉とリチャード・ジョーンズの鮮やかなステージングが注目されたが、中でも話題を呼んだのは、帝都ウィーンの上流階級の物腰を、パステルカラーの装置のもと、より和らげて伝えた演出である。主な登場人物が「心は貴族、でも振る舞いは現代的に」演じた結果、ドラマが幅広い世代から共感されたのだ。 そして10月、この名演出が愛知で改めて披露される運びに。中部圏のオペラの殿堂、愛知県芸術劇場で、日本が誇る名歌手が一堂に会する。元帥夫人役はまろやかで豊かな響きの林正子と熱い声音の森谷真理、彼女に恋する青年オクタヴィアンは颯爽とした小林由佳とフレッシュな澤村翔子、若者に一目ぼれする少女ゾフィーは人気抜群でチャーミングな幸田浩子と爽やかな新星の山口清子がダブルキャストで競演する。その一方で、物語を引っ掻き回す「お茶目な敵役」オックス男爵役では、太い声音と若さを誇る大塚博章と共に、近年めきめきと頭角を現す狩野賢一が登場とのこと。後者はいわゆる大抜擢だけに、晴れの舞台が今から関心を集めている。 なお、今回指揮台に立つのは練達の老匠ラルフ・ワイケルト。このマエストロが名古屋フィルハーモニー交響楽団をどう纏めるか、ファンなら見逃せないだろう。美声テノールの中島康晴もイタリア人歌手役で彩りを添えるこのステージで、音響の魔術師R.シュトラウスの壮麗な音楽美を堪能してみよう。2点とも:2017年東京文化会館での公演より 写真提供:(公財)東京二期会 ©三枝近志

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