eぶらあぼ2017.7月号
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28 1952年生まれ。フランクフルトを拠点に活動し、ドイツの劇作家ハイナー・ミュラー(95年没)との協働で知られる。90年代から音楽と演劇の複合としての「ムジークテアター」を毎年のように発表。今秋、KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2017で『Black on White(Schwarz auf Weiss)』(96年初演)を京都芸術劇場 春秋座にて日本初演する。 ハイナー・ゲッベルスのムジークテアターを代表する本作では、楽器を手にしたアンサンブル・モデルンのメンバーが演奏し、ときに朗読し、あるいはゲームに興ずる…。それはインスタレーションのようでもあり、予測がつかない展開で、音楽家たちと彼らの生活が提示される。 ムジークテアター(Musiktheater/music theatre)を日本語に置き換えると“音楽劇”となるが、ゲッベルスは「オペラでも演劇でもないもの」と考える。「使われる言葉、台詞が音楽的な要素を伴っています。私の作品には音楽家が多く登場します。彼らの演奏行為そのものが演劇であり、ドラマなのです」 現代音楽の先鋭、アンサンブル・モデルンのために書かれ、彼らと共に創り込んだ。18人の音楽家が演奏者と俳優の二役をこなす。「音楽家が演劇という異なるジャンルに挑戦する作品でもあります。本格的な演劇の演者として台詞を語り、振り付けられて身体を動かすこともあれば、専門外の楽器を演奏したりもします。なかでも振付の要素は重要です。初演から20年経った今でも、この作品を上演するとなると初演時のメンバーが集まってくれます」 時代とともに音楽家たちの在りようも、音楽を享受する人々の生活も変化した。「私の作品は、観客の想像力に大きく依っています。時代は違えど、観ることで何かを考える行為は不変です。普遍性、と言ってもよいでしょう。いつ観ても意味が生まれるようなものを創っているつもりです」アンサンブル・モデルンの演奏行為そのものがドラマなのです ゲッベルスのムジークテアターに一貫するテーマは“不在”だ。 「『不在』という意味で、この作品には『中心』がない。主人公と脇役がいる従来の舞台の在り方ではなく、それぞれがみな主人公。一般的に演劇では存在する登場人物が直接的に語りかけますが、本作をたとえて言うなら“風景画”のようなものですね。18人の音楽家によって構成される風景の中に、観る人それぞれの関心によって何を見出すのか? 『これを読んでいる方々は、まだこの世に生きている。でも、これを書いた私は、すでに遠く影の領域に足を踏み入れて久しい…』エドガー・アラン・ポーの小説『影』のドイツ語朗読がハイナー・ミュラー自身の『声』で流れます。ロラン・バルトが67年、『作者の死』を唱えますが、その100年以上も前にポーはそのことに言及しているのです。本作のクリエーションの間に亡くなったミュラー追悼の意味も込めてはいますが、彼の死だけでなく、いろいろな要素が絡みあっています」 日本公演では一部の台詞は日本語で読まれ、日本語字幕もつける。「引用される言葉は、言葉であって言葉でない、音としての言葉という要素もあります。それが、一つの作品にあえて何ヵ国語も使う理由のひとつなのです」interview ハイナー・ゲッベルスHeiner Goebbels/作曲・演出ハイナー・ゲッベルス×アンサンブル・モデルン 『Black on White』(日本初演)10/27(金)19:30、10/28(土)15:00 京都芸術劇場 春秋座(京都造形芸術大学内)8/8(火)発売問 KYOTO EXPERIMENT チケットセンター075-213-0820  京都芸術劇場チケットセンター075-791-8240KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 201710/14(土)~11/5(日) ロームシアター京都、京都芸術センター、京都芸術劇場 春秋座、京都府立府民ホール “アルティ”、京都府立文化芸術会館 他http://kyoto-ex.jp/取材・文・写真:寺司正彦

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