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61至高の室内楽 MOSTLY KOICHIRO vol.3世代を超えた親密かつ濃密な室内楽文:柴田克彦高関 健(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団初心者から“通”まで虜にする新・名曲集文:林 昌英7/14(金)19:00 紀尾井ホール問 アスペン03-5467-0081 http://www.aspen.jp/第49回ティアラこうとう定期演奏会6/3(土)14:00 ティアラこうとう問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ “豪華にして、懐かしくも新しい、本格的な室内楽”─『至高の室内楽 MOSTLY KOICHIRO』をひと言で表せば、こうなるだろうか。1969年に結成した東京クヮルテットの第1ヴァイオリン奏者として活躍後、桐朋学園等で教鞭をとりながら多彩な活動を続けてきた原田幸一郎が、古い仲間や若い世代の奏者たちと行う同公演のvol.3が、7月に開催される。今回のメンバーは、東京クヮルテット結成時からの盟友ヴィオラ奏者・磯村和英、30年にわたって読響のソロ・チェリストを務めた毛利伯郎のベテラン勢と、97年ハノーファー国際コン 2015年4月の常任指揮者就任から2年間、その共演は毎回充実して意義深く、聴く人に感銘を与え続けている――そんな好調なコンビが高関健と東京シティ・フィルである。この春からは共働作業も3年目を迎え、ますますの成果が期待される。 6月のティアラこうとう定期は、チャイコフスキーの「弦楽セレナーデ」とヴェルディのオペラ序曲・前奏曲集という、ちょっと意外なカップリングの名曲プロ。凝ったプログラムで知られる知的な高関のこと、ここも何か意図があるのかもしれない。チャイコフスキーは同作の作曲時期の1880年頃にはイタリア滞在も長かったし、ヴェルディ作品にも触れたのだろうか…。 とはいえ、演奏自体はあくまで感興豊かで心に迫ってくるのが、近年の高関の魅力。イタリアを好んだチャイコフスキーがその歌心と古典的形式をクール優勝の神谷美千子、2007年チャイコフスキー国際コンクール優勝の神尾真由子という原田に学んだヴァイオリン・ソリストたち。それに神尾の夫で同年のチャイコフスキー国際コンクール最高位受賞のピアニスト、ミロスラフ・クルティシェフが加わる。ちなみに日本勢は桐朋とジュリアードの在籍経験者。つまり屈指の実力者たちが、同門ゆえの統一感と、世代や立場を異にするがゆえの新鮮さを併せ持ったアンサンブルを聴かせる。 演目は、原田が「人生の中で想い出深い」と語る3曲だが、モーツァルトの取り入れつつ、ロシアへの愛をほとばしらせたような名作「弦楽セレナーデ」は、いまは様々な解釈が知られており、彼がどう聴かせるか予想もつかず、注目の一曲。ヴェルディ作品では、最新のスコアを冷静に吟味して正しい奏法を見出しながら、ライヴでは熱きイタリア・オペラの魂を見せてくれるはず。高関のメッセージに注目する聴き手だけでなく、クラシック音楽の初心者にとっても、超の付く名曲たちをすばらしい演奏で体験できるチャンスとして、文句なしにお勧めの公演。感動的な「弦楽セレナーデ」の序奏の響きから、ラストの《アイーダ》凱旋行進曲のスペクタクルまで、楽しみは尽きない。「ハイドン・セット」唯一短調の弦楽四重奏曲第15番、シューマンの死に因んだブラームスの劇的なピアノ四重奏曲第3番、重厚かつ緻密で奥深いフランクのピアノ五重奏曲と、全て短調のシリアスな作品ばかり。“仲間たちの集い”的な緩さなど微塵もない内容だし、濃密さが半端ない。これは、クルティシェフが与える化学反応を含めて、注目すべき室内楽公演だ。ミロスラフ・クルティシェフ ©Takaaki Hirata神尾真由子 ©大窪道治毛利伯郎神谷美千子磯村和英 ©Marco Borggreve原田幸一郎 ©堀田力丸高関 健 ©Masahide Sato
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