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1968月+夏の音楽祭(その2)の見もの・聴きもの2017年8月の曽そし雌裕ひろかず一 編 本号では前号に引き続き、夏の音楽祭を中心としたコメントを掲載しますが、スペースの関係で取り上げられなかった音楽祭、コメントできなかった要注目公演もたくさんあります。ご容赦のほどお願いいたします。 また、◎印を付けた公演は、注目度も高く人気のある公演も多いため、発売早々に完売となっているケースも十分に考えられます。その点もお含みおきの上、ご参照下さい。●【夏の音楽祭】(8月分)〔Ⅰ〕オーストリア まず、ザルツブルク音楽祭のオペラ公演では、ウィーン・フィルの演奏する20世紀のオペラ、ショスタコーヴィチ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」、ベルク「ヴォツェック」とライマン「リア王」が面白そう。次にクルレンツィスとムジカ・エテルナの組み合わせによるモーツァルト「皇帝ティトの慈悲」。おや、ネトレプコの出る「アイーダ」やドミンゴの出る「二人のフォスカリ」が一番だろう!という方も当然いらっしゃるだろうが、このあたりになると、もう注目公演というよりスペシャル・イベントと言った方がしっくりきそうだ。一方、オーケストラ公演は、今年はウィーン・フィル以外では、バレンボイムとアルゲリッチが共演するウェスト=イースタン・ディヴァン管、ラトル指揮のベルリン・フィル、ムターが独奏者として登場するピッツバーグ響あたりがメジャークラスとしては目立つ程度。だが、器楽・室内楽に目をやると、テツラフとアンスネスの共演、ソコロフ、シフ、内田光子やポリーニのピアノ、ムターのヴァイオリンやゲルネの独唱、ハーゲン・クァルテット等々、例年通りの豪華なアーティストが並んでいる。また、◎印は特に付していないが、フランスの作曲家ジェラール・グリゼーをフィーチャーした複数の演奏会は、作品をまとまって聴くのに好企画。 「インスブルック音楽祭」は、かつてのヤーコプス時代が終わって、やや魅力が薄くなったように思われた時期もあったが、今年などは、デ・マルキ指揮のモンテヴェルディ「ウリッセの帰還」をはじめとして、同じマルキ指揮のストラデッラ「洗礼者ヨハネ」、メメルスドルフの指揮する「ファエンツァ写本」からの典礼音楽、ムジカ・アンティクァ・ラティーナによる「中欧・西欧のキリスト教・イスラム教の音楽」、R.カイザーの「ローマの反乱」など、ここでしか聴けないような激レアものの演奏会もいろいろ並んでいる。〔Ⅱ〕ドイツ 「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」、「MDR音楽の夏」、「ラインガウ音楽祭」は、共に性格の似た広域音楽祭。本文では主要公演しか取り上げていないので、詳細は是非音楽祭HP等でご確認いただきたい。なお「ラインガウ音楽祭」では、本文に取り上げた地区の他にも、ヴィースバーデンから西に約20キロ離れたヨハニスベルク城(ガイゼンハイムの郊外)で、室内楽の優れた演奏会も数多く開かれている。「ブレーメン音楽祭」(8月分)では、ヘレヴェッヘ、クルレンツィスの他、ローレル指揮のベルリオーズ「荘厳ミサ曲」、ボストン古楽祭室内アンサンブルによるセバスティアーニの「マタイ受難曲」などピリオド系の目の離せない演奏会がある。また「ルール・トリエンナーレ」では、カンブルラン指揮のドビュッシー「ペレアスとメリザンド」、ヘレヴェッヘ指揮のモンテヴェルディの「ヴェスプロ」の他、福島の原発事故を題材としたフィリップ・マヌーリの新作「Kein Licht」も上演される。なお、フライブルク・バロック管がバッハの「ロ短調ミサ」を演奏するアンスバッハの「バッハ週間」(http://www.bachwoche.de/)も本文で紹介できなかった音楽祭の一つ。〔Ⅲ〕スイス 「ルツェルン音楽祭」は、豪華な有名オーケストラ・有名アーティストの競演の影で、非常にマニアックな好企画室内楽・アンサンブル企画などが用意されている。本文では紙面の都合上、どうしてもシャイーやアルゲリッチやラトルといったバブリー(?)な演奏会を優先して記述しているが、例えば、現代作曲家ファン・デル・アーの音楽劇やチェルハの「シュピーゲル」(28日)など、あまり目立たない公演にも注目すべき演奏会がある。また、スイスは、高級山岳リゾート地での夏の音楽祭も多く、その中から「グシュタード・メニューイン・フェスティバル」と「ヴェルビエ音楽祭」を紹介した。どちらも市中の教会で連日催される演奏会が実に魅力的。恐縮ながら詳細はHPをご参照のほど。〔Ⅳ〕イタリア 夏の間「カラカラ浴場跡」でオペラ公演を行うローマ歌劇場については先月号の本欄でも触れたが、この他、ヴェローナやトーレ・デル・ラーゴ、マチェラータなど、イタリアの夏の音楽祭は野外ステージでの公演に有名どころが多い。そうした中、通常の室内劇場で繰り広げられるロッシーニの饗宴が「ペーザロ・ロッシーニ・フェスティバル」。今年も「コリントの包囲」「試金石」「トルヴァルドとドルリスカ」など、いずれも充実したロッシーニのオペラ上演となるに違いない。〔Ⅴ〕フランス・〔Ⅵ〕ベネルクス フランスの「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティバル」は内容的には出演者も充実したお薦めできるピアノ音楽祭だが、難点は野外の仮設ステージであることと現地周辺にホテルがほとんどないこと。ご留意のほど。一方、ベルギーやオランダでは古楽中心のハイレベルな音楽祭がいろいろ開催されている。残念ながら詳細内容まで記述できなかったが、本文にある「ユトレヒト古楽祭」、「アントワープ古楽祭」はコアな古楽ファンにも大変評価の高い音楽祭なので、関心の向きには是非一度足を伸ばしてみることをお薦めしたい。〔Ⅶ〕イギリス 「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」(8月分)での注目は、グートの演出するモーツァルト「皇帝ティトの慈悲」。8月は、ザルツブルク音楽祭の項でも紹介したクルレンツィス指揮のムジカ・エテルナによる同じ演目の公演が各所であるため、奇しくも若手指揮者によるピリオド系チームの競演となっている。「エディンバラ国際フェスティバル」では、オーケストラ公演もさることながら、オーボエのフランソワ・ルルーが近代オーボエ・ソナタの代表曲(サン=サーンス、ヒンデミット、プーランク、デュティユー等)を一挙に演奏するというのが管楽器ファンにはたまらないのではないか。これだけ有名曲ばかり並べるリサイタルには、意外にお目にかからない。なお、ノセダの指揮でヴェルディ「マクベス」とプッチーニ「ラ・ボエーム」が上演されるが、どちらもトリノ王立歌劇場の客演公演。「プロムス」ではクリスティが振るヘンデル「エジプトのイスラエル人」、サロネン=フィルハーモニア管のジョン・アダムズ作品、大野和士=BBC響で藤村実穂子が出演するターネジの「Hibiki」(2016年にサントリーホールで世界初演)、ロト=レ・シエクルのフランス・プロ、それにラトル=ロンドン響のシェーンベルク「グレの歌」やフルシャ=BBC響の「フス教徒」に焦点を当てた作品の特集など、なかなかマニアックな演奏会が揃っている。〔Ⅷ〕北欧 スウェーデンの「ドロットニングホルム・オペラ・フェスティバル」には、ミンコフスキが2015-17年の3年間にわたって登場し、モーツァルトのダ・ポンテ三部作を振っている。その3年目の今年は「コジ・ファン・トゥッテ」。ミンコフスキ・ファンにとっては、今年も見逃せない重要公演。また、本文では紹介できなかったが、スウェーデン放送局の音楽祭「Baltic Sea Festival 2017」(http://sverigesradio.se/sida/default.aspx?programid=3430)には、サロネン、ゲルギエフ、ハーディング等の人気指揮者が登場する。(曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)

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