eぶらあぼ2017.5月号
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66下野竜也(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団ドヴォルザーク「6番」メインのこだわりプロ文:林 昌英イヴリー・ギトリス(ヴァイオリン)ヴァイオリン界の“レジェンド”健在!文:林 昌英第307回 定期演奏会6/24(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp5/27(土)19:00 紀尾井ホール問 テンポプリモ03-5810-7772 http://www.tempoprimo.co.jp/他公演 5/23(火)高崎シティギャラリーコアホール(027-328-5050) これは楽しみな公演だ。高関健の常任指揮者就任から3年目に入った東京シティ・フィルは、定期演奏会で毎回高水準かつ聴衆の心に深く伝わる好演を継続している。6月定期に登場するのは高関の盟友・下野竜也。この4月からは広響の音楽総監督に就任し、名匠への道を歩み続けている。 本公演は、メルヘンの世界で“家族の愛”が描かれるフンパーディンク《ヘンゼルとグレーテル》の前奏曲で柔らかに開始するが、次に来るのはワーグナー自身の生々しい“禁断の愛”を契機に作られた「ヴェーゼンドンク歌曲集」(ヘンツェ編)。下野らしい仕掛けで、その妖しくも美しい詩と音楽がどんな表情をまとうのだろう。歌はメゾソプラノの池田香織。昨年の東京二期会《トリスタンとイゾルデ》公演におけるイゾルデ役の絶唱が記憶に新しいが、同オペラと並行して書かれた関連深い歌曲集だけに、今回も深い歌唱が期待 ギトリスが今年も日本に“帰ってくる”。日頃から日本への愛を隠さず、「日本に着くと、自分の家に帰ってきたような気が毎回する」というギトリス。今年はなんと95歳を迎えるが、演奏への意欲はますますみなぎっている。 1922年生まれ、超絶技巧と個性的な歌いまわしで世界の第一線で長く活躍、19世紀の演奏様式をいまに伝える巨匠である。…などと説明するよりも、16年にメニューインが生まれ、以下、18年シェリング、19年ヌヴー、20年スターン、21年グリュミオー…と、同時期に生まれた大ヴァイオリニストたちの名前を挙げる方が、ギトリスが「伝説の巨匠」の時代に同じ次元で活躍した貴重な存在であることがわかるかもしれない。本公演にむけたコメントでも、こどもの頃に聴いたクライスラー、師匠でもあったティボー、エネスコ、そしてハイフェッツらが同時代人として登場し、「一人ひとりが独立した惑星のようなソリストたち」と表現しているが、できる。なお、ワーグナーの晩年に助手をつとめていたのがフンパーディンクである。 そしてメイン曲は、ドヴォルザークの交響曲第6番。下野はかねてから「特別に好きな曲」と公言しており、これまでも読響やN響等各地で取り上げて、その度に白熱の名演を繰り広げてきた当時から残った最後の巨星がギトリスその人である。 今回の東京公演では、ピアノが久しぶりに代わり、世界的巨匠たちとのステージを重ねる名手イタマール・ゴランとの共演になるのも注目。ギトリスは「イタマールは彼が15歳の時から知っている。世界中の最高の音楽家たちと室内楽で共演する彼と音楽を作ったら…必ず何かが起こる」とのことで、前回とはまた違った演奏になりそう。今回はクライスラー「愛の悲しみ」、マスネ「タイスの瞑想曲」、チャイコフスキー「メロディ」といったプログラムが予定されている。 日本へのメッセージは「“I love you”だよ!」とほほえむギトリス。その雄姿と唯一無二の至芸に魅了されるときがくる。得意中の得意演目。知名度は後の3曲に譲るものの、穏やかな美しさと雄大な広がりを持つ第6番のファンは意外と多い。下野がこの曲を振るからには、ファンは当然必聴。まだなじみがないという方もやはり必聴。終演時には好きなシンフォニーが1曲増えて帰ることになるはずだ。池田香織 ©井村重人下野竜也 ©Naoya Yamaguchi

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