eぶらあぼ2017.5月号
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56©Sakiko NomuraチェロリサイタルシリーズVol.Ⅹ全4章、豊穣のチェロ年代記(クロニクル)を遡る午後!5/14(日)14:00 東京文化会館(小)問 コンサートイマジン03-3235-3777 http://www.concert.co.jp/水谷川優子(チェロ)チェロの原点を辿る大きな旅取材・文:長井進之介Interview 日本とドイツに拠点を置き、多彩な演奏活動を展開する水谷川優子。オリジナリティに富んだプログラムが毎回話題を呼ぶリサイタルシリーズが今回で記念すべき10回目を迎える。「全4章、豊穣のチェロ年代記(クロニクル)を遡る午後!」と題されたリサイタルは4部(章)から成る充実したプログラムとなっており、現代からバロック時代へと遡りながら、水谷川らしい視点で選ばれた名曲たちを楽しむことができる。 「これまで“近距離で剛速球を投げるような”感覚で強くこだわりをもったプログラムでリサイタルを行ってきましたが、一昨年くらいからは少し肩の力が抜けてきて、自分を客観的に見られるようになってきたんです。今回は大きな構成ではありますが、いらしてくださるお客様が気負わずに、純粋に肩の力を抜いてもっとチェロを好きになって下さることを願って選曲しました」 その想いは、第2章の後に行われる音楽評論家・林田直樹によるトークコーナーを設けたことにも表れている。 「プログラム全体を、水が流れるように淀みなく進むものにしたかったのです。お客様にはずっとリラックスして音楽に浸ってほしいので、今回林田さんにお話していただくことで、それが自然な形で実現できると思っています」 古いところから新しいものへ、ではなく現代から過去へ、と遡っていくプログラミングも特徴的だ。 「聴いて下さる方を驚かせようといった意図はありません。私はリサイタルを一つの“旅”として捉えています。今回は一つの流れに乗りながら、チェロの“原点”に戻っていくようなイメージをもって決めました。ちなみに今回のプログラムは、バッハの『無伴奏チェロ組曲第1番』など、ト長調の作品が多くなったのですが、これはチェロの音色の美しさや魅力というのを自然に楽しんでいただきたいと考えた結果です。ト長調は、チェロが無理をしないで響くもっとも自然な調なのです」 ショスタコーヴィチの「チェロ・ソナタ」にベートーヴェンの「同第5番」のような大曲を盛りこむことができたのは、黒田亜樹という強力なピアニストの協力もあってこそ。黒田はミラノを拠点に、現代音楽をはじめとする幅広いレパートリーによる演奏活動に加え、教育者としても非常に高い評価を得ているピアニストだ。 「誰と弾くかで演奏は全く変わります。特にソナタのような作品はお互いに烈しいものを出し合うものですから、共演者との相性はとても重要になってくるんです。私が室内楽でお世話になっていた先生に黒田さんも師事していたこともあり、私たちは音楽に対する姿勢やメソードといったものがとても近くて、会話を楽しむように自然なアンサンブルができています。本当にありがたく、心強いパートナーです」 近年ヨーロッパで静かなブームを呼んでいるというヴァスクスの「無伴奏チェロのための『本』」(抜粋)から、チェロのための最古の作品を書いた作曲家のひとりであるデリ・アントーニの「リチェルカーテ」までを辿る旅を、水谷川と黒田の濃密なアンサンブル、林田のトークによる案内で楽しむことで、チェロという楽器の魅力を再発見できることであろう。5/16(火)19:00 東京オペラシティ リサイタルホール問 東京オペラシティチケットセンター03-5353-9999 http://www.operacity.jp/東京オペラシティリサイタルシリーズ Bビートゥーシー→C 印田千裕(ヴァイオリン)日本人作品も取り入れたこだわりのプログラミング文:林 昌英©小島竜生 東京芸術大学から英国王立音楽院に学び、帰国後はソロから室内楽まで幅広い活動を展開、近年は日本女性作曲家や山田耕筰を特集したアルバムなど邦人作品の演奏でも高い評価を得るなど、意欲的なパフォーマンスが光るヴァイオリニストの印田千裕。5月には彼女らしいプログラムで東京オペラシティ『B→C』に出演。「ヴァイオリンの音色の美しさと響きをさまざまな角度からとらえ、それぞれの作品の魅力を最大限に表現したい」と印田は思いを語る。 前半は無伴奏作品集。バッハの無伴奏パルティータ第3番のきらびやかな音楽で始まり、サーリアホ「夜想曲」の静寂、クセナキス「ミッカ“S”」のダイナミズム、タルコフスキーの映画から着想を得た糀場富美子の「ルブリョフの扉」と続き、ソロ・ヴァイオリンの限りない可能性を表現。後半は安田正昭のピアノとの共演で、池辺晋一郎「顫(ふる)へたる身の舞踏」を。そして最後はロマン派の代表的傑作フランクのソナタで、そのあたたかな響きがすべてを優しく包み込む。

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