eぶらあぼ2017.5月号
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55巨ホロヴィッツ匠が愛したピアノたち 江口 玲&阪田知樹デュオ名器と名手が生み出すピアノ音楽の究極の美文:飯田有抄上岡敏之(指揮) 新日本フィルハーモニー交響楽団いよいよ、上岡のブルックナー登場!文:柴田克彦6/19(月)19:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp/第573回定期演奏会 ジェイド5/11(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 新日本フィル・チケットボックス03-5610-3815 http://www.njp.or.jp/ 時代物の優れたピアノによるコンサートは、昨今では珍しいものではなくなりつつあるが、コンディション抜群の2台が揃い、名手によるデュオで奏される機会ともなればやはり格別だ。紀尾井ホールに2台のニューヨーク・スタインウェイが並ぶ。1台は1887年製の「ローズウッド」。19世紀のピアノ文化を今に伝え、カーネギーホールの舞台でも活躍した楽器だ。もう一台は1912年製の「CD75」。ホロヴィッツが愛奏したピアノとして知られ、繊細さとパワフルさを備えた名器である。 優れた楽器ほど、奏者のどんな繊細なコントロールにも応えることができる。逆を言えばピアニストの側にも力量がなければ、楽器の魅力を十分に引き出すことはできない。今回の弾き手に不足はない。江口玲と阪田知樹だ。江口はこの2台でベートーヴェンの三大ソナタを録音し、コンサートでも弾き込んできた。パデレフスキの小品とリス 新日本フィルの音楽監督に就任した今シーズン、徐々に自身の色を滲ませつつある上岡敏之が、同楽団で初めてブルックナーに挑戦する! これは、2007年ヴッパータール響との第7番における史上最長(?)の遅いテンポの演奏を知る者にとって、興味津々以外の何物でもない。だが5月定期「ジェイド」のポイントは、「ブルックナーが自分の交響曲の理想像が見え始めた時期に書いた交響曲第3番と、彼の崇拝するワーグナーが楽劇に入る前に書いた《タンホイザー》序曲という、それぞれ前期の作品の組み合わせ」、そして間に置くワーグナー「ヴェーゼンドンク歌曲集」のために「強く推した」(共に上岡談)ドイツの名歌手カトリン・ゲーリングの歌にある。 ドイツの歌劇場で音楽総監督を務めた上岡の《タンホイザー》の表現も要注目だし、ブルックナーがワーグナーに捧げた交響曲第3番を、いかに関連付けるか? あるいは対比させるのか? ぜひとトのハンガリー狂詩曲第2番の対照的な2曲で、楽器固有の「声」を届けてくれるだろう。阪田知樹は昨年のリスト国際コンクールの覇者。熱意と創造性に富む彼の姿勢は、無限の伸びしろを感じさせる。今回は自身による編曲版でラフマニノフのチェロ・ソナタの第3楽章も生で体験したい。また第7番で論議を呼んだテンポについて、上岡は常々「楽譜の意味を考え、書いてある通りにやればそうなる」と語っており、それは一貫した彼のポリシーでもある。ならば第3番はどうなるのか? これも実演で確認するに限る。 《パルジファル》や《ルル》などで共演した上岡が「言葉を大事にする素晴らしい歌手」と惚れ込む、ゲーリングの日本初歌唱も見逃せないし、新日本フィル側も「今シーズと、リストの「マゼッパ」を披露する。聴き逃せないのは、二人が2台ピアノで披露するブラームスだ。「ハイドンの主題による変奏曲」や「2台ピアノのためのソナタ」はいったいどんな奥行きを感じさせてくれるのだろうか。ピアノ音楽の究極の美に触れることになりそうだ。ンの目玉の1つ」と太鼓判を押す。ともあれこの絶妙なプログラミング、ファンの視点で見ずとも、濃密かつ陶酔的な時間を得られること必至だ。阪田知樹 ©Hideki Namai江口 玲 ©堀田力丸カトリン・ゲーリング上岡敏之 ©K.Miura

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