eぶらあぼ2017.5月号
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46尾高忠明(指揮) 読売日本交響楽団ハープ版「アランフェス」など人気作を集めて文:江藤光紀ピエタリ・インキネン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団ワーグナー:《ラインの黄金》(演奏会形式)若きシェフが響かせる新世代のワーグナー文:江藤光紀第602回名曲シリーズ 5/26(金)19:00 東京芸術劇場第96回みなとみらいホリデー名曲シリーズ5/27(土) 14:00 横浜みなとみらいホール第5回パルテノン名曲シリーズ 5/28(日)15:00 パルテノン多摩問 読響チケットセンター0570-00-4390 http://yomikyo.or.jp/第690回東京定期演奏会5/26(金)19:00、5/27(土)14:00 東京文化会館問 日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 http://www.japanphil.or.jp/ 尾高忠明は90年代に読響の常任指揮者を務めた後も、名誉客演指揮者として継続的に登壇し続け、両者の関係は実に息の長いものとなってきた。東京のオーケストラ・シーンはいまや目まぐるしく変わっているが、地道に作られてきた信頼関係はそれだけに貴重である。 5月の名曲シリーズ3公演のメインはブラームスの交響曲第1番。荘重な気分で始まった音楽は優美な緩徐楽章、クラリネットののどかな歌へと続き、終楽章ではアルプスの雄大な山々を想起させる角笛に導かれ歓喜へと至る。もちろん指揮者もオケも聴かせどころやツボを知り尽くしているから、暗から明へという基本設計のカタルシス、交響楽の醍醐味をしっかりと味わわせてくれるだろう。“老舗レストランの名シェフが腕を振るう看板メニュー”だから、安心して舌鼓を打ってほしい。 協奏曲にはハープ界の貴公子、グザヴィエ・ドゥ・メストレが登場し、「アラン 日本フィルと首席指揮者ピエタリ・インキネンが好調だ。筆者は1月のブルックナーの交響曲第8番を聴いたが、ほんのりと上気したあでやかな演奏で、勢いのある演奏が持ち味の日本フィルから一味違ったカラーを引き出していた。現ポスト就任は昨年9月だが、すでに2009年から首席客演の任にあり、シェフ第一シーズンから高いパフォーマンスを挙げている。 さて、4月から5月にもブラームス交響曲ツィクルスが予定されるなど見所に事欠かない両者だが、演奏会形式によるワーグナーの《ラインの黄金》は今シーズンのハイライトの一つだろう。全4作・15時間近くを要する《ニーベルングの指環》は、日本では長い間、制覇の困難な“名峰”のような存在だったが、ここにきて国内団体の様々なチャレンジが見られるようになった。オペラでも実績を積んでいるインキネンは、すでにリング全曲を2013年、16年とオーストラリアで手掛け、高い評フェス協奏曲」を聴かせる。哀愁の漂う第2楽章の旋律は有名で、テレビや映画などでもよく耳にする。もともとはギター協奏曲だが、今回はメストレの輝かしいハープの音色がラテンのリズムと情熱をどんな風に演出するのかに注目したい。 尾高は多くの日本人作曲家の現代価を得ている。日本フィルとも13年には第2作の《ワルキューレ》第1幕を、そして昨年9月の就任披露では《ジークフリート》、《神々の黄昏》抜粋を手掛けて“リング戦線”に名乗りを上げた。序夜となる《ラインの黄金》で一通りの展望が描き出されることになる。 今回は新国立劇場のリングでもヴォータンを歌っているユッカ・ラジライネン曲を取り上げ、創作界を支えてきた指揮者でもある(父は指揮者の尾高尚忠、兄・惇忠は作曲家)。冒頭に演奏される芥川也寸志「弦楽のための三楽章『トリプティーク』」は、土俗性とモダンなセンスが融合した第1楽章にひなびた子守歌が続き、変拍子が特徴的なフィナーレで結ぶ人気曲だ。をはじめ、リリ・パーシキヴィ(フリッカ)、ウィル・ハルトマン(ローゲ)、ワーウィック・ファイフェ(アルベリヒ)など、主役級に世界の歌劇場を賑わせる名優が登場する。日本フィルもこの2月には山田和樹のタクトで久々にピット入りするなど、オペラに積極的に取り組んでいる。見計らったかのようなタイミング…いや、周到な計画と言うべきか。左より:尾高忠明 ©読響/グザヴィエ・ドゥ・メストレ ©Gregor Hohenberg/Sony Classical International左より:ピエタリ・インキネン ©吉田タカユキ/ユッカ・ラジライネン ©Rene Gaens/リリ・パーシキヴィ ©Rami Lappalainen and Unelmastudio Oy Ltd/ウィル・ハルトマン/ワーウィック・ファイフェ
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