eぶらあぼ2017.5月号
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1887月+夏の音楽祭(その1)の見もの・聴きもの2017年7月の曽そし雌裕ひろかず一 編 本号と次号では、例年通り、夏の音楽祭を中心としたコメントを掲載しますが、スペースの関係で取り上げられなかった音楽祭もあります。ご容赦のほどお願いいたします。●【7月の注目オペラ公演】(通常公演分) 例年通り、ベルリン州立歌劇場のシーズン最後に行われる「インフェクション!現代ムジークテアーター・フェスティバル」は、現代オペラの企画公演として注目すべきもの。今年の7月はライマンの「幽霊ソナタ」とリームの「ヤーコプ・レンツ」がラインナップされている。20世紀のオペラとしては、ケルン歌劇場で上演されるシュレーカーの「烙印を押された人々」も要注目(ゾルテス指揮)。この演目は、後述するとおり、ミュンヘン・オペラ・フェスティバルでも別のプロダクションで取り上げられる。ライプツィヒ歌劇場のワーグナー「リング」(7月は「ジークフリート」と「神々の黄昏」)も定番の注目公演だが、本文では触れられなかったデュッセルドルフのライン・ドイツ・オペラで6月に新制作される「ラインの黄金」も、かつてエッセン歌劇場の演出を一手に引き受けていたヒルスドルフの演出で大いに注目される(7月は2、12、14、16日)。他にはやはり6月からの継続公演として、パリ・オペラ座の「カルメン」(ビエイト演出)、英国ロイヤル・オペラの「オテロ」(カウフマン出演)なども要注目。なお、ドミンゴはスペインのテアトロ・レアルでヴェルディ「マクベス」に出演する(演奏会形式)。●【7月の注目オーケストラ公演】(通常公演分) 7月のオーケストラ公演では、通常公演、音楽祭公演を含めて、ケント・ナガノの客演公演が目立つ。通常公演としてはケルンWDR響でバリトンのゲルハーヘルと共演。●【夏の音楽祭】(7月分)〔Ⅰ〕オーストリア 「ザルツブルク音楽祭」では、クルレンツィスがムジカ・エテルナを振って上演するモーツァルト「皇帝ティトの慈悲」や「レクイエム」がまず聴きもの。ケント・ナガノがバイエルン放送響と演奏するメシアンの「我らの主イエス・キリストの変容」(ピアノはP=L.エマール)、タリス・スコラーズやサヴァール指揮の古楽系コンサート、シフの弾くバッハも興味深いが、まだ日本ではほとんど無名のグラジニーテ=ティーラという女性指揮者にも注目したい(23日)。リトアニア出身のまだ30歳ほどの若手だが、昨年よりバーミンガム市響の常任指揮者に抜擢され、今夏は各地の音楽祭に登場する。 湖上オペラで有名な「ブレゲンツ音楽祭」で今年上演されるのは「カルメン」だが、ホルテンの演出というのが興味深い。視覚的にもいろいろ仕掛けがありそうだ。「シュティリアルテ音楽祭」は、主宰者であったアーノンクールがいなくなった今後、何を軸として展開していくのか今年は様子見といったところ。風光明媚な場所で開催される「ケルンテンの夏音楽祭」では、服部譲二の指揮するウィーン室内管にソリストとして登場する天才少女アルマ・ドイチャーに注目。まだ12歳ながらピアノもヴァイオリンも一流で長編オペラもすでに作曲済みという神童…。さてその実力は。〔Ⅱ〕ドイツ 「ミュンヘン・オペラ・フェスティバル」では、キリル・ペトレンコの振るR.シュトラウス「影のない女」、ワーグナー「タンホイザー」、ショスタコーヴィチ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」がやはり軸。来シーズンは、日本公演の「タンホイザー」を除いて彼はこれらの演目をもう振らないので、聴いておくなら夏のうち(とはいえチケットは完売状態…)。ペトレンコ以外にも、メッツマッハーの振るシュレーカー「烙印を押された人々」やプリンツレゲンテン劇場で上演されるウェーバー「オベロン」などの注目公演もある。序曲だけでなく「オベロン」全曲を観る機会はそうそうないだろう。 「バイロイト音楽祭」の今年のプレミエは「ニュルンベルクのマイスタージンガー」。ヴァルター役のフォークト人気も手伝ってチケットは即日完売状態だが、最近、映画監督や演劇畑演出家の起用が続くバイロイトとしては、久々、本来のオペラ演出家であるバリー・コスキーが登場することに妙な安心感を抱くファンも少なくないようだ。「シュレスヴィヒ・ホルシュタイン音楽祭」「ラインガウ音楽祭」「キッシンゲンの夏音楽祭」では、その全てに登場する前述のグラジニーテ=ティーラ指揮バーミンガム市響の他、これらの音楽祭や「ルール・ピアノ・フェスティバル」にも出演するピアノのグリゴリー・ソコロフを機会を捉えてぜひ一度聴いていただきたい。実際、ピアノ演奏の常識を超える驚異の音色と表現力を備えたとんでもないピアニストだ。飛行機嫌い(?)とかで日本に来る可能性は皆無に近いので海外(主にヨーロッパ。ただし年間の演奏会数は多い)で聴くしかない。なお、ドイツにも関わらず、バート・ヴィルトバートで行われる「ロッシーニ・イン・ヴィルトバート」音楽祭ではロッシーニの意欲的な企画・公演が毎年展開されるため、近年ロッシーニ・マニアには非常に注目されている。また、本文中では独立しては記述できなかったが、「メクレンブルク=フォアポンメルン音楽祭」(festspiele-mv.de/)にもイザベル・ファウスト、ケント・ナガノ、ブロムシュテット等々の人気アーティストが登場する。〔Ⅲ〕スイス 本文中には、特にスイスの音楽祭として記述したものはないが、スイスの7月中の音楽祭として、グシュタードの「メニューイン音楽祭」(www.gstaadmenuhinfestival.ch/)、ヴェルビエの「ヴェルビエ音楽祭」(www.verbierfestival.com/)などを紹介しておきたい。〔Ⅳ〕イタリア イタリアではローマ歌劇場の夏の企画である「カラカラ浴場跡」でのオペラ公演が面白い。また、「マルティナ・フランカ音楽祭」は、例年意欲的な曲目選択で、玄人好みの音楽祭路線を継承している。今年もマイアベーアの「アンジュのマルゲリータ」という珍品オペラがルイージの指揮で上演される。「ヴェローナ野外音楽祭」では、音楽祭創設100周年を記念して、初回に上演された1913年演出版の「アイーダ」が再上演されるのが今年の特記事項。〔Ⅵ〕フランス 「ボーヌ・バロック音楽祭」は、相変わらず古楽系随一の夏の音楽祭。今年もペトルー、エキルビー、ルセ、クリスティ、ダントーネ、ローレル、ヤーコプスといった有名指揮者に加えて、歌手陣も充実。全体を通じて全て◎レベルの注目公演ばかりと見て間違いはない。「エクサン・プロヴァンス音楽祭」は、今年はパリ管が2つのオペラでピットに入るが、ローレル指揮ル・セルクル・ドゥ・ラルモニーの「ドン・ジョヴァンニ」、カペラ・メディテラネ演奏のカヴァッリ「エリスメーナ」といったピリオド系のオペラ上演にも興味を惹かれる。「モンペリエ音楽祭」ではフェドセーエフが比較的珍しいロシア作品で登場。「ラ・ロック・ダンテロン国際ピアノ・フェスティバル」はピアノ好きには必見・必聴の音楽祭。4月3日現在ではまだ詳細未発表なので、後日、ぜひHPでご確認いただきたい。〔Ⅷ〕イギリス〔Ⅸ〕北欧 イギリス「グラインドボーン・オペラ・フェスティバル」では、クリスティの指揮するカヴァッリ「ヒュペルムネストラ」、フィンランド「サヴォンリンナ・オペラ・フェスティバル」では、日本のオケにも客演しているハンヌ・リントゥ指揮のA.サッリネンのオペラ「クレルヴォ」やベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」が面白そうだ。(以下次号)(曽雌裕一・そしひろかず)(コメントできなかった注目公演も多いので本文の◎印をご参照下さい)

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