eぶらあぼ2017.5月号
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174CDCDSACDCD新井博江ピアノ・リサイタル~シューベルト:「さすらい人幻想曲」他冨田勲:ドクター・コッペリウス/渡邊一正&東京フィルブラームス:交響曲第3番・第4番/ユロフスキ&ロンドン・フィルバッハの錬金術Vol.2 #1/4 適正律クラヴィーア曲集/武久源造シューベルト:即興曲集D899より第1番・第3番、幻想曲「さすらい人」/ブラームス:8つの小品/リスト:ハンガリー狂詩曲第12番、コンソレーション第3番新井博江(ピアノ)初音ミク(バーチャルシンガー)ことぶき光(エレクトロニクス)高橋ドレミ(ピアノ・キーボード)渡邊一正(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団 他ブラームス:交響曲第3番、交響曲第4番ウラディーミル・ユロフスキ(指揮)ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団J.S.バッハ:適正律クラヴィーア曲集第1集より第1番~第6番(チェンバロによる)、同第2集より第1番~第6番、第1集より第1番(フォルテピアノによる)武久源造(チェンバロ/フォルテピアノ)ナミ・レコードWWCC-7833 ¥2500+税収録:2016.11/11,11/12、Bunkamuraオーチャードホール(ライヴ)日本コロムビアCOCQ-85337 ¥3000+税収録:2010.10/27,2011.5/28、ロンドン(ライヴ)エイベックス・クラシックスAVCL-25928 ¥2000+税コジマ録音ALCD-1165 ¥2800+税ベルリン芸大、カールスルーエ音大大学院とドイツで長らく研鑽を積み、現在桐朋音大准教授を務める新井博江による、ほぼ10年ぶりとなる録音。シューベルト「即興曲D899第1番・第3番」では、優しさと強さに満ちた音で味わい深い歌を奏で、続く「さすらい人幻想曲」ではそこに時折感情をぶつけるような音を挟んで、豊かな起伏を表現する。ブラームス「8つの小品」の濃密な音、リスト「ハンガリー狂詩曲第12番」の輝かしく重厚な音、そして「コンソレーション」の甘く滑らかな音と、作品ごとに異なる音色を聴かせる。楽曲の世界にじっくり向き合う姿勢がにじみ出るアルバム。(高坂はる香)大バッハは、過去の自作を収斂させた形で畢生の大作「ロ短調ミサ」を創り上げた。冨田勲にとって、死の1週間前まで取り組み続けた当作は、同様の存在だったのかも。過去の作品の素材に、新たな要素を加え、冨田の“憧れの存在”だった糸川英夫博士への壮大なオマージュを創造。ボーカロイド“初音ミク”の採用で「人声を超えた声楽」を掌中とし、人生を賭けたデジタルとオーケストラ・サウンドの融合の頂点を目指す。第4楽章の後半、「リボンの騎士」の劇伴として、最初期に手掛けたワルツが登場するなど、特に冨田サウンドで育った世代には、ぐっとくる瞬間が幾つもある。(寺西 肇)今秋来日する話題のコンビのブラームス交響曲シリーズ完結編。ロンドン・フィルの自主レーベルからリリースされていた2010、11年のライヴ録音のSACD盤である。本作は、これら2曲がマーラーの時代に近い1883年と85年の作であることを改めて想起させる、ダイナミックかつロマンティックな演奏だ。ただし往年の肥大化した方向ではなく、引き締まった響きと造型の中でそれが実現されている点に、ユロフスキの手腕が示されている。第3番は速めのテンポで力強く前進し、第4番はことのほかドラマティック。ライヴで体験すればさらに感動的だろうと思わせる。(柴田克彦)還暦を迎える歴史的鍵盤楽器の鬼才・武久源造が、いつにも増して“攻め”の姿勢で、いわゆる「平均律」へ挑む。より相応しい「適正律」との訳語を与え、この第1弾では、まず第1集から第1〜6番をペダル付きチェンバロで、続いて第2集の第6番から第1番へと遡ってジルバーマンのフォルテピアノで弾き、最後に第1集の第1番をリプライズ。かなり大胆なレジストレーション、楽器による表現の違い、イネガルの採用など、全篇に衝動を与えてゆく。多彩な実験的要素を盛り込み、使用可能な24の調の全てに作曲する、“超時代的”な作品。武久の姿勢自体が、いかにも相応しく感じさせる。 (寺西 肇)
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