eぶらあぼ 2017.4月号
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75静岡音楽館AOI × SPAC-静岡県舞台芸術センター共同事業1940 ―リヒャルト・シュトラウスの家―史実と音楽を交えて描くシュトラウスと彼の時代文:江藤光紀児玉 宏(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団深い経験と見識を映した必聴のブル8文:柴田克彦4/29(土・祝)13:30 静岡音楽館AOI問 静岡音楽館AOI 054-251-2200 http://www.aoi.shizuoka-city.or.jp/第329回 定期演奏会 みなとみらいシリーズ5/13(土)14:00 横浜みなとみらいホール問 神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107 http://www.kanaphil.or.jp/ 1940年は皇紀、つまり神武天皇の即位から数えて2600年目にあたる。当時、これを祝って万博とオリンピックを同時に行ってしまおうと考えるまで、日本社会は高揚していた。軍国主義もあったが、同時に豊かさへの憧れもあふれていたのである。それがなぜあれほどまでに悲惨な結末を迎えたのか。その顛末には文化・芸術も様々な形で関わっているのだが、戦後、人々は口を閉ざした。みんなが思い出したくない過去だったから。年月を経て、いまやそれはみんなが知らない過去へと変わりつつある。 静岡音楽館AOIの芸術監督・野平一郎が静岡県舞台芸術センターの宮城聰(演出)と構想5年を費やして世に問う『1940 ―リヒャルト・シュトラウスの家―』は、音楽をちりばめた歴史劇によって時代の雰囲気を蘇えらせようとする試みだ。日本政府は紀元奉祝にあたり各国の作曲家に新曲を委嘱。同盟国ドイツからはかつて帝国音楽院総裁の地 “児玉宏のブルックナー”が、再び関東で実現する。5月の神奈川フィル定期の第8番。しかも通常とは異なる1887年第1稿ノヴァーク版だ。児玉といえば、ドイツの歌劇場で下積みから叩き上げ、バイエルン州立コーブルク歌劇場の音楽総監督を務めるなど、本場の音楽語法を知悉した名匠。日本では、2008~16年に音楽監督&首席指揮者を務めた大阪交響楽団(旧・大阪シンフォニカー響)とのコンビで名を馳せた。そして同楽団での最大の業績がブルックナーの交響曲全曲演奏。この「児玉宏のブルックナー」は、09年に文化庁芸術祭大賞を受賞するなど、絶賛を博した。 神奈川フィルとは15年9月定期で初めて共演し、ブルックナーの交響曲第4番等を披露。楽団の能力を最大限に引き出した圧倒的名演と賞賛され、同作曲家を象徴する名作=第8番で、待位にあったR.シュトラウスが楽曲を寄せた。もともと政治にあまり関心がなかった世界的作曲家ですら、ナチの意向は無視できなかったのである。他方、シェーンベルクのようなユダヤ人、前衛芸術家は亡命を余儀なくされた。 また、劇には庶民の音楽文化も映し出されるようだ。ワーグナーやヴェルディ望の再登場と相なった。今回演奏される第1稿は、インバルなど一部の指揮者でしか耳にできない稀少な版。一般的な第2稿とは、第1楽章後半をはじめ随所に違いがあるので、曲を知る者にも新鮮だ。児玉は大阪響でも同版で演奏しており、その際に楽団のウェブサイトで、「音符が書き下されるのと同時にブルックナーの内面で起こる“音楽的発展の軌跡”を、より明確に聴き取れるのは、第1稿ではないか」との考えを述べている。それゆえ今回も“内面の動き”を重視した、濃密な名演が期待される。加えて神奈川フィルが同曲に取り組むのは、意外にも初めてとののアリアは、明治以降の日本人のオペラへの憧憬の中心にあった。服部良一(作曲家・服部克久の父)の「蘇州夜曲」は李香蘭こと山口淑子が歌い、アメリカのポピュラーソング「私の青空」も戦前の日本で人気を博した。これらの楽曲に佐々木典子(ソプラノ)、妻屋秀和(バス)といった強力なキャストが臨む。由。あらゆる意味で歴史的な本公演に、ブルックナー&オーケストラ・ファンは、こぞって足を運びたい。宮城 聰 撮影:新良太児玉 宏佐々木典子妻屋秀和野平一郎 ©相田憲克

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