eぶらあぼ 2017.4月号
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53ハオチェン・チャン(ピアノ)あふれる詩情と、内面性を映し出す取材・文:高坂はる香Interview 卓越した技術と繊細な感性を持ち、来日のたび、個性を印象付けるプログラムを披露しているハオチェン・チャン。2009年ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで辻井伸行とともに優勝して以来、中国の若い世代を代表するピアニストの一人として多忙な演奏活動を行っている。 今年のリサイタルプログラムも、詩情あふれる彼らしい内容だ。 「曲のタイトルに、子ども、雪、霧、戦争という言葉が入っていることからも、文学的な雰囲気を持つプログラムだとご想像いただけるでしょう。前半はシューマンから異なる性格を持つ2作品を取り上げます。そして後半は、リスト、ヤナーチェク、プロコフィエフで、ロマン派から近代へ、より東欧風の音楽へと展開してゆく内容です」 シューマンで選んだ2曲は、「対照的でおもしろいカップリングに聴こえるはず」だという。 「音を最小限に抑え、透明感のある繊細な作品に仕上げられた『子どもの情景』と、さまざまな和声が登場し、ドイツ的な形式が重視された『交響的練習曲』。一人の人間が書いたとは思えないほど、全く異なる景色が広がります」 そして後半は交響的練習曲の流れを汲み、リストの「超絶技巧練習曲集」より「鬼火」と「雪あらし」へ。 「軽やかで悪魔的な曲、朗々とした曲と、この2曲も対照的。それに続けるのは、ヤナーチェクの『霧の中で』。彼独特の言語で表現するファンタジーの世界、どこか悲劇的な音楽に、想像を刺激されます。民謡風の音楽で魅了するだけでなく、精神的に深く、有機的な展開をみせる優れた作品です。さらにエキゾチックな要素が強いプロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番は、情感豊かで演奏効果も高い曲。たびたび取り上げている大好きなレパートリーです」 来日に先立ちリリースされるCDには、シューマン、リスト、ヤナーチェクに加えてブラームス晩年の「3つの間奏曲op.117」を収録。この選曲には、自身のキャラクターが大いに反映されているそうだ。 「今、同世代の音楽家の間では、気持ちを全部さらけ出す演奏でコミュニケーションすることが主流かもしれません。でも僕はもともと外交的な人間でもありませんし、そういう方法が苦手です。ブラームスの作品には、心の内や苦しみを古典様式で覆い隠すところがあり、そこに共感するのです。シューマンのように自分の弱ささえもさらけ出す素直な音楽にも、また別の魅力がありますけれどね」 自身の感性に共鳴する作品を丁寧に選び、組み立てたプログラム。彼が日頃内に蓄えている豊かな感情を、しっかりと聴きとりたい。4/23(日)14:00 ノバホール問 コンサートイマジン03-3235-3777 http://www.concert.co.jp/アレクセイ・ゴルラッチ(ピアノ)活力に満ちた表現とピアニズム文:飯田有抄©Monika Lawrenz アレクセイ・ゴルラッチが4年ぶりに日本でリサイタルを開く。今回の来日で行う唯一のリサイタルの会場は、石造りの外壁が大変美しい、つくばのノバホールだ。 ゴルラッチは1988年、ウクライナのキエフ生まれ。浜松国際ピアノコンクールやミュンヘン国際音楽コンクールをはじめとする数々の大舞台を制してきた彼が、ここで披露するプログラムはオール・ショパン。1曲目、ショパン晩年の作であるポロネーズ第7番「幻想」から一気に惹き込まれること間違いなしだ。マズルカ第42~49番では、さまざまなショパンの表情をカラフルに描き出してくれることだろう。「舟歌」、ソナタ第2番「葬送」、「子守唄」と続き、スケルツォ第2番で締めくくる。ショパンの追求した美と激しさの世界を鮮やかに伝えてくれる選曲にも、多いに期待が膨らむ。 ゴルラッチ20代最後の年、そのブリリアントで活力に満ちた表現、大きなうねりで音楽を作り出すピアニズムをしっかりと味わいたい。6/8(木)19:00 紀尾井ホール問 カジモト・イープラス0570-06-9960http://www.kajimotomusic.com/CD『シューマン、リスト、ヤナーチェク、ブラームス/ハオチェン・チャン』BIS SA 2238SACDハイブリッド盤¥オープン/輸入盤
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