eぶらあぼ 2017.4月号
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31フォルクハルト・シュトイデ Volkhard Steude/トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン芸術監督、ヴァイオリンウィーン古典派とシューベルトの魅力をぞんぶんに取材・文:山田真一 「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン」は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団やウィーン国立歌劇場管弦楽団のメンバーを中心とした30名からなる特別編成のオーケストラだ。毎年公演を重ね、今回が15回目の来日。今年も全国の主要都市で6公演を行う予定で、ベートーヴェンの序曲、モーツァルトとシューベルトの交響曲に、ハイドンとベートーヴェンの協奏曲が並び、実にウィーンらしいプログラムとなった。 今年、率いるのはウィーン・フィルのコンサートマスター、フォルクハルト・シュトイデ。彼はこのオーケストラの特徴について「この規模で、交響曲を指揮者なしで演奏するのはとても珍しい。ウィーン・フィルの楽員たちを中心にしたメンバーで、一流のプレイヤーたちが揃った素晴らしいアンサンブル」と水準の高さを自負する。 今回の公演では2つの交響曲がメイン・ピースとして取り上げられる。ひとつは、モーツァルトの交響曲第35番「ハフナー」、それからシューベルトの交響曲第6番ハ長調。ハフナー交響曲は、ザルツブルクからウィーンに住み移って最初の交響曲で、番号から窺えるように円熟味を増したモーツァルトの傑作だ。一方、シューベルトの交響曲第6番は「未完成」交響曲や大ハ長調交響曲に較べると演奏の機会が少ないものの、「演奏される価値が大いにある作品」と取り上げる意義を強調する。 「シューベルトこそ最もウィーンらしい作曲家と常々ウィーン・フィルのメンバーが口にしますね。とにかく会場で聴いてみれば、その真価がわかるでしょう」 協奏曲では、このオーケストラの首席チェリスト、ロベルト・ノージュが演奏するハイドンのチェロ協奏曲第2番がまず注目だ。 「彼のチェロはまさにウィーンの弦楽の音色を体現する素晴らしい見本です。その音色を会場で聴いて、その魅力をぞんぶんに味わって欲しい」とシュトイデは勧める。また、毎年注目を浴びる日本人ソリストとの共演は、若手ピアニストの金子三勇士。金子は日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれ、単身ハンガリーにわたり、11歳でハンガリー国立リスト音楽院大学に入学して学んだというユニークな経歴を持つ。バルトーク国際ピアノコンクールで優勝して以来、ヨーロッパや日本で活動する期待の星だ。 「私もオーケストラのメンバーも、彼との初共演に期待しています」と待ち遠しい様子だ。 また、名古屋での「ウィーン・グランド・コンサート」では、「コリオラン」序曲、「ハフナー」の他、名古屋フィルとの合同でリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」を演奏する。 「名古屋フィルとは長年にわたって素晴らしい演奏を共にしてきました。年に一度だけの共演ですが、いつもあたたかく迎えてくれる家族のような存在です」と気心の知れる相手との演奏に死角はない。 シュトイデやウィーン・フィルのメンバー等は、合同演奏指揮者の大植英次とは初共演になるが、「音楽家という職業の楽しみのひとつは、常に新しい出会いがあること。彼と一緒にどの様な音楽が出来るのか」と、期待をのぞかせる。大植は、ミネソタ管弦楽団音楽監督、ハノーファー北ドイツ放送フィル首席指揮者、大阪フィルハーモニー交響楽団音楽監督を歴任。古典派やロマン派の音楽を得意としているだけに、しっかりとした構成の中に、熱のこもった演奏が望めるだろう。 トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーンは、日本の聴衆についてその「熱狂的な歓迎」ぶりを熟知しているだけあって、いつも来日を楽しみにしているという。加えて、今回も青少年のための特別プログラムの一環として「小学校などへの小編成での訪問コンサートを6公演予定」しており、そうした活動も来日の重要な理由となっている。 また、母体のウィーン・フィル公演に較べると、チケットがぐっと手頃な値段なことも、このオーケストラの公演の重要な魅力である。今年も、ぜひ聴いてみたい。
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