eぶらあぼ 2017.4月号
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182CDCDSACDCDチャイコフスキー:交響曲第5番/バッティストーニ&RAI国立響シューベルト/鷲見加寿子光の中のベルリン 第三帝国で禁じられた歌曲/長島剛子&梅本 実ツィガーヌ~ヴァイオリン名曲集/花村恵理香チャイコフスキー:交響曲第5番アンドレア・バッティストーニ(指揮) RAI国立交響楽団シューベルト:ピアノ五重奏曲「鱒」、ピアノ・ソナタ第13番鷲見加寿子(ピアノ)鷲見恵理子(ヴァイオリン)榎戸崇浩(ヴィオラ)金子鈴太郎(チェロ)鷲見精一(コントラバス)ヒンデミット:ピアノ伴奏による歌曲op.18/クシェネク:フランツ・カフカの言葉による5つの歌曲/ウルマン:沈む太陽、夕べの幻想/コルンゴルト:3つの歌曲op.22/グロース:愛の歌第2集/ヴァイル:マドロス・タンゴ、光の中のベルリン 他長島剛子(ソプラノ)梅本 実(ピアノ)ヴィターリ:シャコンヌ/サラサーテ:祈り/クライスラー:愛の悲しみ、前奏曲とアレグロ/アクロン:ヘブライの旋律/ファリャ:スペイン民謡組曲/ラヴェル:ツィガーヌ/フォーレ:夢のあとに/マスネ:タイスの瞑想曲 他花村恵理香(ヴァイオリン)藤井一興(ピアノ)日本コロムビアCOGQ-104 ¥3000+税収録:2016.6/24、浜離宮朝日ホール(ライヴ) 他ナミ・レコードWWCC-7829 ¥2500+税録音研究室(レック・ラボ)NIKU-9007 ¥2800+税マイスター・ミュージックMM-4003 ¥3000+税イタリアの俊英指揮者と同国国営放送オケの2枚目のCD。組み合わせからみて、熱狂的で明るい音楽が展開されるかと思いきや、さにあらず。むろん豊かなカンタービレも熱気もあるし、作曲者のイタリア的側面を感じさせもする。だがこの演奏は、人間の心象をじっくりと描いた大きなドラマのようだ。第1楽章の冒頭からたっぷりと運ばれ、その後はテンポや強弱の変化が著しい。第2楽章も恐ろしく息が長いし、第3楽章のワルツには深い翳がある。意表を突いてしみじみと始まる第4楽章は、様々な音を浮き彫りにした後期ロマン派風の音楽だ。ともかくご一聴を。(柴田克彦)ドイツ・ベルリンでの演奏活動を経て帰国、第一線で活躍を続ける一方、世界に羽ばたく逸材を育て上げてきたピアノの鷲見加寿子。息子でコントラバス奏者の精一をはじめ、俊英たちと共演してのシューベルトは、清冽だ。ピアノの小気味良いタッチを盛り立てる弦の響きは、しなやかで躍動的。そして、プロフェッショナルの道を究めた鷲見にあって、随所で覗かせる、良い意味での音楽愛好家的な姿勢が、シューベルトという作曲家に相応しく、聴く者の共感を呼ぶ。併録には、初期の名品・ソナタ第13番。特に独墺作品に定評ある名手だけに、気遣いの行き届いた、滋味深い好演で魅せる。(笹田和人)19世紀末から20世紀のドイツ歌曲の普及に努めてきた長島と梅本によるデュオの活動の集大成ともいえる本盤には、ナチス・ドイツにおいて演奏が禁じられた作曲家であるヒンデミットやコルンゴルトらの、“知られざる”というよりも、知ることを禁じられた作品を収録。それまでの時代とは一線を画した詩の世界、新しいドイツ語の響きや色彩が、強い現実感を伴って感じられるのは、長島の清潔な美声と明晰なディクションのなせる業だろう。勿論、多彩な音色と的確なルバートによって長島の描き出す世界をさらに鮮やかなものに昇華させた梅本のピアノの果たす役割も大きい。 (長井進之介)桐朋学園大から英国王立音楽院に学び、国際的な活躍を展開するヴァイオリンの花村恵理香。そのファースト・アルバムは、銘器ストラドと名弓トルテを駆り、バロックからユダヤにまつわる作品まで多彩な曲を収録。タイトル曲であるデモーニッシュな難曲「ツィガーヌ」の最深部に秘めた愉悦や、メロディアスな作品における歌心を、包容力ある豊かな音色と真摯なアプローチで余さず表現。クライスラー「前奏曲とアレグロ」のアレグロ部など、ただ技巧をひけらかすことをせず、ゆったりとした、しかし淀みのないテンポ取りで、深い精神性を浮き彫りにするあたり、非凡な才能を実感させる。 (笹田和人)
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