eぶらあぼ 2017.3月号
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体験機会の希少な作品や公演スタイルに出会うことができるのも、音楽祭の楽しみのひとつだろう。とくに東京春祭では、音楽作品と歴史・背景などを関連づけて体験できる、“楽しみながら学べる”公演が多い。そんな知的好奇心を刺激する公演のほんの一部を、開催日順にご紹介したい。 知られざる作曲家や作品を再発見する「ディスカヴァリー・シリーズ vol.4」(3/20 上野学園 石橋メモリアルホール)は、「忘れられた音楽――禁じられた作曲家たち」がテーマ。戦争や政治体制に翻弄されて亡命せざるを得なかった作曲家たちの忘れられかけた佳品を、オーストリアのフルート奏者ウルリケ・アントンほかの演奏と、ウィーン国立音楽大学のゲロルド・グルーバー教授による解説付きで、芸術と時代について考察しながら鑑賞する。 5年かけて作曲家ブリテンを紹介していく注目の新シリーズ「ベンジャミン・ブリテンの世界I」(3/26 上野学園 石橋メモリアルホール)。初回は室内楽と歌曲作品が取り上げられる。企画構成はピアニストの加藤昌則。「こういう企画は音楽祭でないとなかなか実現できず、本当にすばらしい機会」と意気込む加藤もトークとピアノで出演するほか、第一線で活躍する若手演奏家がそろい、複雑な時代を生きたブリテンの姿に迫っていく。 「語りと音楽――永井荷風」(3/29 東京文化会館・小)は、小説家の永井荷風が欧米で接したオペラの鑑賞記録をたどり、気鋭の歌手たちがその名旋律を再現する趣向。時は明治時代、永井が本場で体験した鮮烈さはいかばかりだったのか。元NHKアナウンサーの松平定知が永井の作品を朗読する。 ひとつのテーマを様々な視点で紹介する「マラソン・コンサート」。その第7弾は、「《ロマン派》~近代に生きた芸術家たち」と題して(4/8 東京文化会館・小)。19世紀ヨーロッパという時代が多様な「ロマン派」作品を通じて浮き彫りにされる。 また、1月に「第15回〈齋藤秀雄メモリアル基金賞〉チェロ部門」を受賞したばかりの酒井淳による同賞受賞記念コンサート(4/9 上野学園 石橋メモリアルホール)にも注目。チェロとヴィオラ・ダ・ガンバを弾く酒井がそ 上野恩賜公園には多くの美術館と博物館が立ち並ぶ。通常は音楽とは離れたそれらの空間で開催されるのが「ミュージアム・コンサート」。上野の森ならではの環境を活かした好シリーズであり、同音楽祭の重要な柱のひとつになっている。 本シリーズで会場となるのは、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、国立西洋美術館、上野の森美術館。コンサートにあわせて展示も鑑賞すれば、目と耳から心を満たせる好機となる。同時期に開催される特別展を記念するコンサートでは、展示内容と関連する演目で当時の空気感も味わえる。 国立科学博物館の〈ナイトミュージアム〉コンサート(3/23)はとくに注目。地球館の全フロアで複数回ずつ演奏とトークが行われ、展示空間を自由に移動しつつ多彩な実演を聴けるというレア体験が好評のコンサートだ。多くの展示物が鎮座する峻厳な空間で奏でられる音楽は、おのずと通常とは異なる空気をまとう。その体験は作品や演奏家の新たな魅力を発見できるチャンスにもつながっていく。東京春祭ならではのミュージアム・コンサート楽しみながら学ぶ! ~知的好奇心をくすぐる公演の両方を奏で、J.S.バッハとF.クープラン作品の“新しさ”をひも解く。現代のチェロと作曲当時のガンバを同じ奏者・舞台で聴くことは、このうえない“学び”の機会ともなるだろう。 ウルリケ・アントンゲロルド・グルーバー左:鈴木 准 右:加藤昌則 Photo:M.Terashi/TokyoMDE松平定知酒井 淳 ©Sophia Albaric昨年の〈ナイトミュージアム〉コンサートより ©青柳 聡昨年のミュージアム・コンサートより ©青柳 聡
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