eぶらあぼ 2017.3月号
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69FUKUSHIMA 白河版オペラ《魔笛》“和洋融合”のファンタジックなオペラ文:宮本 明がんばろう日本!スーパーオーケストラ 毎日希望奨学金チャリティーコンサートベートーヴェンで震災遺児たちを応援文:林 昌英3/20(月・祝)14:30 白河文化交流館コミネス問 白河文化交流館コミネス0248-23-5300 http://www.cominess.jp/3/24(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール問 毎日新聞社事業本部03-3212-0804/テンポプリモ03-5810-7772http://www.npo-qgo.org/ 《魔笛》を、『ドラゴンボールZ』『聖闘士星矢』などのヒット・アニメの脚本家・小山高生がリメイク。と聞いただけで、なにやら面白いことが起こりそう。物語の舞台を日本に読み換えた上演は、昨秋オープンした福島県・白河文化交流館コミネスの「FUKUSHIMA 白河版オペラ《魔笛》」だ。 同じスタッフが制作して宮城県多賀城市で初演した『魔法の笛』をベースに、ディテールをカスタマイズ。ご当地・白河を舞台に、タミーノは「民の王子」、パミーナは「小峰姫(コミーナ)」として登場する(コミーナは会場名「コミ 6年前の春、震災と原発事故の影響から重苦しい空気が充満するなか、音楽家たちは「自分になにができるか」と悩みながらも行動を起こし、4月以降は数多くのチャリティーコンサートが開催され、平時では考えられなかったような顔ぶれによる公演も実現した。そういった公演のひとつが、この毎日新聞社主催の「がんばろう日本!スーパーオーケストラ 毎日希望奨学金チャリティーコンサート」で、その後も継続して毎年開催される代表的なチャリティーイベントになった。読響コンサートマスターの小森谷巧がリーダーとなり、全国各地で活躍中の名演奏家たちが集う、“スーパー”の名にふさわしいオーケストラが年に一度だけ結成されるのである。 「毎日希望奨学金」とは、毎日新聞社が設けた、東日本大震災で保護者を亡くした「震災遺児」を支援する制度で、学業継続が困難になった生徒や学生に奨学金を給付するもの。本公演では出演者が募金箱を持って直接協力をネス」が由来)。また、原作の筋立てを尊重しつつ、背登修(セトス)というオリジナルの役を追加し、パミーナの父(つまり夜の女王の夫)である彼が、ザラストロに実の娘の誘拐をもちかけた、という物語全体の伏線も埋め込んだ。 面白おかしいだけではない。愛、勇気、成長、和解がテーマのこのオペラに、震災復興への歩みを重ね、震災をテーマにした壁画制作で知られる画家・加川広重らが舞台美術を手がけた。呼びかける光景も定着している。 7度目となる今年は、堂々たるベートーヴェン・プロが組まれた。なかでも仲道郁代をソリストに迎えるピアノ協奏曲第5番「皇帝」は楽しみ。作品全体に要求される立派な造形や雄大さはもちろんのこと、感動的な緩徐楽章における仲道ならではの繊細な表現にも期待がふくらむ。 指揮は近年評価上昇中の海老原光。音楽面では、現代作曲家としても活躍する杉山洋一の編曲・指揮というのが目を引く。出演歌手は新海康仁(タミーノ)、文屋小百合(パミーナ)、倉本晋児(ザラストロ)、早坂知子(夜の女王)、髙橋正典(パパゲーノ)ほか。 子供向け上演も多いメルヘン・オペラに、なるほど、日本が世界に誇るアニメ文化の視点を利用しない手はない。見逃せない、というか、ぜひ理屈抜きで楽しみたい上演だ。東京シティ・フィルのアソシエイト・コンダクターを務めたほか、国内外の主要オーケストラに客演を重ね、テレビ番組出演など活動範囲も広げている注目株だ。今回の「エグモント」序曲と交響曲第5番「運命」はいずれも、古典的な表現で言えば「苦悩から歓喜へ」の代名詞的作品。“ど直球”の超名作たちで、この大切な一夜にふさわしい、入魂のベートーヴェンを披露してくれるに違いない。左より:海老原 光/仲道郁代 ©Kiyotaka Saito/昨年の模様倉本晋児新海康仁髙橋正典文屋小百合早坂知子杉山洋一

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