eぶらあぼ 2017.3月号
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60Quartet Plus ウェールズ弦楽四重奏団 & 金子 平3/29(水)19:00 紀尾井ホール問 紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061 http://www.kioi-hall.or.jp/金子 平(クラリネット)触発し合いながら生まれる五重奏の妙味取材・文:柴田克彦Interview 金子平は、リューベック国立音大でザビーネ・マイヤーに学び、当地の楽団を経て2013年から読売日本交響楽団の首席奏者を務める、クラリネット界屈指の名手。彼は3月、紀尾井ホールの新シリーズ「Quartet Plus」で、実力派の誉れ高いウェールズ弦楽四重奏団[﨑谷直人、三原久遠(共にヴァイオリン)、横溝耕一(ヴィオラ)、富岡廉太郎(チェロ)]と共演し、クラリネット五重奏の醍醐味を披露する。 両者は08年、難関のミュンヘン国際音楽コンクールで共に3位を獲得した際、「現地で食事して」意気投合。14年以降モーツァルトの五重奏曲を3回共演し、録音も行っている。 「彼らと共演して、出だしからこれまでとは違うと感じました。真直ぐな音が内に熱さを秘めながら奏され、望む音楽がストレートに伝わってくる。緊張と緩和といった波長が自然に合うんです」 今回の1曲目は、モーツァルト未完のクラリネット五重奏曲変ロ長調 K.Anh.91(バイヤー補筆版)。同曲の生演奏は貴重だ。 「単一楽章で、サロン風の小品といった趣。優美でチャーミングな、コンサートの導入に相応しい曲です」 メインはモーツァルトと並ぶ名作、ブラームスのクラリネット五重奏曲。 「彼らとはこれまで演奏していないので、今回はぜひこれを! と要望しました。この曲は、1対4の協奏曲的なモーツァルトの作品と違って、クラリネットが内声に回るなど、完全な五重奏になる場面が多く、動いているパートの音をきちんと聴きながら、皆で1つの音色を作らないといけない。そこが難しさであり、魅力でもあります」 ブラームス晩年の枯淡の境地といわれる曲だが、彼の捉え方はそれにとどまらない。 「過度に暗く吹きたくはないのです。第3楽章の初めには、暗さを経て希望に昇華していくような明るさがあり、ジプシー風の場面や生き生きした部分もあります。私はよく映像を思い浮かべるのですが、例えば第2楽章は、ゆらゆらと揺れる雲の上を魂がふわふわ漂っているイメージ。また、弦が短調で降り、クラリネットが長調で上がる冒頭部分をはじめ、全体が短調と長調の間で揺らいでいる。かように情景変化の大きな、ブラームスの様々な人生観が反映された曲だと感じています」 室内楽は「皆が意見を出し合って1つのものを作るのが魅力」だという。 「特に全員対等に割り振られたブラームスの五重奏曲は、リハーサル時のプロセスから対等に音楽を作っていく必要があります。今回は、クラリネットが目立ちすぎず隠れすぎず出入りしていく、その微妙さを表現できればと思っています」 紀尾井ホール室内管のメンバーでもある彼は、「ホールのピュアな響きを用いて、より良い演奏を」とも語る。本番の成果が実に楽しみだ。3/12(日)14:00 第一生命ホール問 トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 http://www.triton-arts.net/クァルテット・ウィークエンド クァルテット・エクセルシオアラウンド・モーツァルト vol.2モーツァルトが愛したクラリネットの“歌”と“音色”文:笹田和人 日本では珍しい常設の弦楽四重奏団として活躍するクァルテット・エクセルシオが、モーツァルトの作品を軸に、その“周辺”にも目を向け、室内楽の魅力を掘り下げるシリーズ『アラウンド・モーツァルト』。第2弾では、クラリネットの澤村康恵を迎えて、傑作「クラリネット五重奏曲」を取り上げる。 モーツァルトは、親友のクラリネットの名手、アントン・シュタードラーのため、この五重奏曲や協奏曲を創作。「この出逢いが無ければ、名曲は生まれなかった。今、オーケストラにクラリネットがあるのも、この作品あってこそ」と澤村は断言。「特に美しい第2楽章は、何度演奏しても飽きない」と、ヴァイオリンの山田百子も言う。 ステージは、ウィーン楽友協会蔵の弦楽四重奏版の楽譜に基づく《フィガロの結婚》序曲でスタート。弦楽四重奏曲第17番「狩」や、モーツァルトの影響を受けて書かれたともされるシューベルトの同第6番に、シュタードラーの二重奏曲第1番(クラリネットとヴィオラ版)も添えられる。左より:澤村康恵/クァルテット・エクセルシオ ©Naoko Ogura

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