eぶらあぼ 2017.3月号
50/199
47ラドミル・エリシュカ(指揮) 札幌交響楽団 東京公演ドイツ・ロマン派の傑作に聴く巨匠の至芸文:片桐卓也東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 特別演奏会千住 明 オペラ《万葉集》(演奏会形式)万葉の優美な世界がドラマティックに蘇る文:伊藤制子3/14(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 カジモト・イープラス0570-06-9960/札幌交響楽団011-520-1771http://www.kajimotomusic.com/http://www.sso.or.jp/ 4/13(木)19:00 東京文化会館問 東京シティ・フィルチケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ チェコの名匠であり、ヤクブ・フルシャなど現在活躍中の若手指揮者たちを育てた名伯楽でもあるラドミル・エリシュカ。1931年生まれなので、今年86歳にならんとする巨匠が、2006年から共演を続ける札幌交響楽団(現在は名誉指揮者となっている)と共に再び東京公演を行う。 前回は、演奏後にオーケストラが舞台を去っても拍手が鳴り止まず、エリシュカが再びステージに呼び戻されたというほど、熱狂的にその演奏が支持された。札幌でエリシュカが指揮をするたびに東京から“通っていた”音楽ファンも多かったが、東京での公演は再び熱い雰囲気に包まれそうな予感がする。 さて、今回の東京公演はメンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」に始まり、シューベルトの交響曲第5番、そしてブラームスの交響曲第1番と、ドイ 作曲家・編曲家・プロデューサーとして活躍中の千住明が、2009年に作曲したオペラ《万葉集》。同年室内管弦楽版で初演されたのち、11年にオーケストラ版で改訂初演された。典雅な古典の世界をリリカルに描いた同作は初演時より好評を博してきたが、この4月、東京シティ・フィルの特別演奏会で待望の再演(演奏会形式)となる。 千住の音楽は従来の現代音楽の枠にとどまらない劇的な美しさが際立つ。オペラのコアなファンから初心者まで、幅広いファンが楽しめるものになっている。台本は黛まどか。若くして俳人ツ・ロマン派の名作を集めたプログラムである。エリシュカと言えば、当然のことながら、チェコ、東欧の作品では他者の追随を許さない豊かな演奏を聴かせてくれた。しかし、実はブラームスも昔から得意としており、すでに第2番~第4番の交響曲を札幌交響楽団と録音に残している。そして最後に残っている第1番を、今回はライヴで体験できるのだ。情感豊かなメンデルスゾーンの音楽、一陣の爽やかな風のようなシューベルトの傑作、そして作曲家の苦闘の跡も見られるブラームスの重厚な交響曲。信頼を置く札響と共に、エリシュカがロマン派への旅へ誘ってくれる。として名を馳せた黛だが、近年はオペラの台本でも実力を発揮している。 全体は二部から成る。第一部「明日香風編」の時代は7世紀。中大兄皇子(天智天皇)、大海人皇子(天武天皇)という兄弟、万葉の女流歌人・額田王、その姉とされている鏡王女が織りなす艶やかな恋物語が主軸だ。第二部「二上山挽歌編」では686年の天武天皇崩御後の時代が舞台。非業の死を遂げた大津皇子への民衆の思慕やその姉・大伯皇女の喪失感といったものが物語を彩る。『万葉集』からとられた名歌とそれらをつないでいく歌詞がいにしえのロマンを饒舌に描き出す、まさに華麗な歴史絵巻だ。出演はソプラノの市原愛、メゾソプラノの富岡明子、テノールの中嶋克彦、そしてバリトンの与那城敬という4人の実力派の歌手。美しい日本語歌唱も大きな魅力だ。藤岡幸夫の指揮で、万葉の優美な世界がドラマティックに蘇ることだろう。ラドミル・エリシュカ Photo:佐藤雅英市原 愛 ©武藤 章富岡明子中嶋克彦与那城 敬 ©Kei Uesugi藤岡幸夫 ©青柳 聡
元のページ
../index.html#50