eぶらあぼ 2017.2月号
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53CD『コダーイ:二重奏曲 他』マイスター・ミュージックMM-3099 ¥3000+税1/25(水)発売大宮臨太郎(ヴァイオリン)& 藤村俊介(チェロ)2人の奏者だけでつくるシンプルかつスリリングな音楽取材・文:宮本 明Interview NHK交響楽団のフォアシュピーラーとして活躍するヴァイオリンの大宮臨太郎とチェロの藤村俊介が、デュオ・アルバム第2弾をリリースする。弦楽器2本のミニマムなアンサンブルに接する機会は貴重だ。 大宮(以下、O)「実際、演奏する機会もなかなかないですし、僕はほとんど初めての作品ばかりでした。2声のみなので、シンプルなだけに難しい」 藤村(以下、F)「とてもスリリング。相手もいるので、無伴奏ソロよりも難しいかな…。かなり覚悟が必要です。でも、こんないい曲が! という発見も多く、マニアックだけど面白いですね」 この編成の有名曲であるコダーイの二重奏曲に、クラリネットとファゴットが原曲のベートーヴェン(WoO.27)や、バッハの編曲作品などを収録している。 F「コダーイはチェロの作品も多く、特に無伴奏ソナタは、自分の先生(安田謙一郎)も含めて肝いりですから、最初から気持ちが入っていました」 O「藤村さんの雰囲気に合ってますよね。どっしりしていて、尖りすぎず、いい感じでフィットする感覚で。あまり縦線がっちりとした音楽ではないので、いつもオーケストラで求められているのとは対極の、もっと自由な感じを二人で出そうと考えて弾きました」 ベートーヴェンは、偽作の説もある作品だが、シンプルでとても愛らしい。 F「オリジナルが管楽器のためのせいか、肌と肌を密着させるかのような弦楽四重奏の作風とは違い、さらっとしています」 バッハは「フランス組曲」や「インヴェンションとシンフォニア」を抜粋した6曲のアレンジなど。 O「鍵盤のアーティキュレーションを、弦楽器でどう解釈するか、いろいろ考えて取り組みました」 F「ピアノでは表現できないレガートを、もっと出したほうがいいのか、など」 O「フレデリック・ノイマンという人のアレンジです。彼の編曲は他に『平均律クラヴィーア曲集』なども含め、全20曲の楽譜がブージー&ホークスから出版されています。これはちょっと面白いレパートリーかなと思っています」 たしかに、決してお手軽な編曲ものと侮れない魅力は、このアルバムを特徴づけている。「コダーイとバッハ。全然色の違う作品が入っているから、どちらかを好きな人も、知らない魅力を見つけられるアルバムかなと思います」(O)、「われわれ二人も、それぞれの魅力を存分に出せたと思います。相手に気兼ねなく(笑)」(F)と、本人たちの手応えも十分な、楽しみなアルバムが完成した。2/27(月)~3/1(水) 世田谷パブリックシアター(03-5432-1515)、3/5(日) まつもと市民芸術館 実験劇場(0263-33-2200)、3/12(日) 穂の国とよはし芸術劇場PLAT(0532-39-3090)、3/15(水) 兵庫県立芸術文化センター(中)(0798-68-0255)、3/18(土) びわ湖ホール(中)(077-523-7136)ピーピング・トム『ファーザー』滲み出るエロティシズムとユーモア文:乗越たかお©Oleg Degtiarov いま最も注目されるベルギーのカンパニーのひとつである「ピーピング・トム」。彼らが創り出す世界は濃厚濃密。人間のダークサイドまでをもえぐり出しつつベルベットのような肌触りを持つ。まるで極上の悪夢のような作品なのである。 これまでも3作品の来日公演があるが、いずれも高い評価を得ている。主宰者はフランス出身のフランク・シャルティエとアルゼンチン出身のガブリエラ・カリーソ。ともにベルギーのアラン・プラテル舞踊団の出身だ。 今回は街の片隅にあるような老人ホームが舞台である。赤を基調とした美術、小さなステージの上で演奏される歌と音楽には淀んだ死の空気がまとわりつく。そこに若い男女が嵌入し、肢体が奇怪に変化するアクロバティックな動きに、空間が歪んでいく錯覚にとらわれる。強烈なエロティシズムとユーモアが滲み出し、見てはいけない秘密を「覗き見(peeping)」てしまったような気持ちになる。 公演先で「現地キャスト」を採用するのも彼らの特色のひとつだ。今回も60~70歳代のシニアキャストを募集し、10名程度の「日本版オリジナルキャスト」が登場する予定だ。日本ならではの舞台を楽しみに待ちたい。 左:大宮臨太郎 右:藤村俊介 ©Junichi Ohno
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