eぶらあぼ 2017.2月号
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52デビュー20周年記念公演 森 麻季(ソプラノ)人のこころに響く美しき歌文:宮本 明飯守泰次郎(指揮) 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団名匠と新鋭、それぞれの熱演に期待文:片桐卓也3/19(日)14:00 横浜みなとみらいホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp/第48回 ティアラこうとう定期演奏会 3/4(土)14:00 ティアラこうとう問 東京シティ・フィル チケットサービス03-5624-4002 http://www.cityphil.jp/ デビュー20周年を迎えた森麻季の記念リサイタルは、日本歌曲からオペラ・アリアまで、彼女の幅広い魅力を伝える構成。ピアノの山岸茂人と、長原幸太らの弦楽五重奏が共演する。 森のデビューは1996年10月のニュー・オペラ・プロダクション公演《電話》(メノッティ)。その翌年7月に二期会と韓国の共同制作の《リゴレット》でジルダ役に抜擢されて以来、日本を代表するプリマとして国内外で輝かしいキャリアを築いてきた。華のある美しい容姿とレッジェーロの目の覚めるようなコロラトゥーラの技術を併せ持つ人気ソプラノだが、その最大の美点は、歌に深い説得力を伴っていることだ。ある取材で彼女は、自らの大きな分岐点として2001年9月11日のアメリカ同時多発テロを挙げていた。ちょうどその日ワシントンにいた彼女は、直後のコ ラフマニノフのピアノ協奏曲といえば第2番と第3番が定番だが、もちろん第1番もある訳だ。19世紀末、ラフマニノフがまだモスクワ音楽院の学生時代に書き上げたピアノ協奏曲第1番は、初演の評判は良かったものの、作曲者自身にとっては満足のいく作品ではなかったようだ。結局、ピアノ協奏曲第2番・第3番を書き上げた後に大幅に改訂され、その改訂版は1919年1月29日にニューヨークで初演されている。なかなか実演で聴くことが出来ない作品であるが、それを東京シティ・フィルが取り上げる。ピアノは1994年生まれの篠永紗也子。2015年にピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ賞、及び東京シティ・フィル賞などを受賞した逸材だ。あえて、ラフマニノフの知名度の低い作品を取り上げる、その意欲を実演で確認してみたい。 指揮は、東京シティ・フィルの桂冠名誉指揮者である飯守泰次郎。協奏曲の前にワーグナーの《タンホイザー》序曲、そして後半にはベートーヴェンンサートで歌い、音楽が直接的に社会に貢献できる力を持っていることを実感したという。彼女の歌に何かの「思い」を感じるのも、そんな体験によるのだろう。 正統的なクラシックのレパートリーはもちろんのこと、今度のリサイタルでも歌う、東日本大震災復興支援ソングの「花は咲く」にも同じ思いが込められていて、それが、リリコの音域でも豊かに響く類い稀な美声で、人の心に直接、濃厚に、しかしとても自然に響く。表層的なプレゼンテーションにかまけるのでははない、そんな歌の本質を見据えた姿勢は、今後キャリアを重ねて声の質が変わっていっても不変のはずだ。の交響曲第7番を置く。飯守&シティ・フィルのベートーヴェンと言えば、これまでにもベーレンライターの新版やマルケヴィッチ版による全曲の実演・録音があり、このコンビの最も得意とする作品と言って良いだろう。中でも第7番は、ワーグナーが「舞踏の聖化」と呼び、リズムに徹底的にこだわった交響曲として知られている。飯守&シティ・フィルのコンビによるベートーヴェンもここしばらくは無かったので、今回も熱演に期待したい。©Yuji Hori篠永紗也子飯守泰次郎 ©武藤 章

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