eぶらあぼ 2017.2月号
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44東京・春・音楽祭―東京のオペラの森2017― 東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.4忘れられた音楽――禁じられた作曲家たち~《Cultural Exodus》証言としての音楽よみがえる亡命作曲家たちの名曲文:江藤光紀東京文化会館 舞台芸術創造事業 ストラヴィンスキー「兵士の物語」“和”のテイストを取り入れたユニークな音楽劇文:東端哲也3/20(月・祝)15:00 上野学園 石橋メモリアルホール問 東京・春・音楽祭チケットサービス03-3322-9966 http://www.tokyo-harusai.com/3/18(土)15:00 東京文化会館(小)問 東京文化会館チケットサービス03-5685-0650 http://www.t-bunka.jp/ 野蛮さは文化においてもしばしば横行する。特に20世紀には出自、信条、政治動向などによって人生の方向を変えざるを得なくなった才能は少なくない。ウィーン国立音楽大学教授のゲロルド・グルーバーはそんな亡命音楽家研究の第一人者だが、グルーバーが同じくこの分野を得意とするフルーティスト、ウルリケ・アントンとともに企画したレクチャー・コンサートが東京・春・音楽祭で実現する。 取り上げられる作曲家はバルトーク(ハンガリー農民組曲)を除き、あまりなじみがないと思うので、簡単に紹介しよう。ヘルベルト・ツィッパー(1904~97、弦楽四重奏のための幻想曲「経験」)はユダヤ系でダッハウの強制収容所に収監されたが、後に保釈されてフィリピンに渡り、戦後はアメリカを中心に活躍した。収容所で作曲した「ダッハウの歌」が知られている。マリウス・フロトホイス(1914~2001、オーバード)はオランダ生まれの評論家・作曲家で、コ 東京文化会館の舞台芸術創造事業として過去にも上演され、好評を博したストラヴィンスキーの実験的舞台作品が3月、同館に再び登場。東京フィルハーモニー交響楽団の首席コントラバス奏者として活躍しつつ、自ら企画する人気のレクチャー・コンサート「文化人類学講座」などでも知られる異才、黒木岩寿が演出を手掛けるということで早くも話題を集めている。 同公演のベースとなるのは、2013年2月にムジカーザで初演された舞台。兵士を演じるパントマイム大道芸人のKAMIYAMA、悪魔役である旧東ドンセルトヘボウのポストをナチに奪われた。モーツァルト研究の大家としても著名である。ポーランド出身のミェチスワフ・ヴァインベルク(1919~96、フルートとピアノための12の小品)はナチのポーランド侵攻を受けてソ連に移住するが、スターリン体制下でも苦難の道を歩んだ。ショスタコーヴィチとの親交は、ソ連時代の彼の創作を支イツ生まれのパフォーマー、ウベ・ワルターをそれぞれ能の「シテ方」や「ワキ方」に見立て、彼らの台詞や内なる声を能楽師の安東伸元(語り手)とその弟子である井上放雲(兵士の声)ら「狂言方」に分業させるなど、“和”のテイストを融合させた斬新なステージ演出は今でも語り草となっている。今回はこれらの個性派キャストが揃って続投、加えて実力派の演奏陣からなるアンサンブルもほぼ同じメンバーでの出演が決定えるものであった。ハンス・ガル(1890~1987、フルートと弦楽四重奏のためのコンチェルティーノ)はユダヤの出自を問われマインツの教職を去った後、イギリスに渡りそこで生涯を過ごした。 彼らの作品には前衛音楽を思わせる難解性はほぼなく、旋律的で分かりやすい。ピアノはドイツに住みミュンヘンで教鞭もとる川﨑翔子。している。もちろん本作品の重要な小道具であり、兵士の“良心”の象徴とも解釈できるヴァイオリンの演奏は、長年にわたり東京フィルのコンサート・マスターを務め、モルゴーア・クァルテットとしての活動では、プログレッシブ・ロックまでこなす幅広いレパートリーを持つ名手・荒井英治が担当。 観客の想像力を刺激して、ステージと客席が一体化するような公演が同館でも実現しそうだ。川﨑翔子 ©Ei Mizuki安東伸元井上放雲KAMIYAMAウベ・ワルター荒井英治黒木岩寿ゲロルド・グルーバーウルリケ・アントン
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