eぶらあぼ 2017.2月号
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27素晴らしい音楽への集中力を持った新星が登場!取材・文:片桐卓也 伯楽ザハール・ブロンの門下からまた逸材が登場した。服部百音、17歳(1999年生まれ)である。昨年11月に東京・紀尾井ホールでリサイタルを開催したが、イザイの無伴奏曲に始まり、ヴィエニャフスキ、エルンスト、ワックスマンと技巧的に難しい作品を並べたプログラムを堂々と弾ききった。また同年10月にはベルリンで録音を行ったデビューCDもリリース。ショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲第1番」、ワックスマンの「カルメン・ファンタジー」(ブリバエフ指揮ベルリン・ドイツ交響楽団との共演)というカップリングだが、10代の演奏とは思えない完成度の高さだ。 「10歳の時に、初めてショスタコーヴィチの協奏曲を聴いたのですが、すぐに気に入って、演奏したいと思いました。でも、なかなかブロン先生の許しが出なくて、結局15歳から取り組むことになりました。今はこの作品に夢中なので、他の曲を録音するということは思いつかなくて」 10代で挑戦するには、なかなか難しい作品であり、作品の背景を理解することも必要だ。 「この協奏曲の中には、喜び、悲しみ、怒り、嘆きなどショスタコーヴィチのすべてがあるような気がしています。それが楽章ごとに表現されていく。それをもう一度、自分なりに追いかけていくような感じで演奏しています。録音に関しても、指揮のブリバエフさんと解釈の方向性が同じだったので、一緒に音楽作りができました」 ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番は、巨匠ダヴィッド・オイストラフによって1955年に初演された。その息子イーゴリ・オイストラフも優れたヴァイオリニストで、モスクワ音楽院でも教えていたが、その時の弟子のひとりがザハール・ブロンである。 「そういう意味で、ブロン先生のスタイルはオイストラフの流れを受け継いだものだと思います。今は、そのブロン先生が与えてくれるものはすべて受け取って、それを自分の中で育てていきたいと思っています」 現在は、日本に住みながら、スイス・インターラーケンにあるザハール・ブロン・アカデミーに年に数回通うという形で教えを受けている。 ヴァイオリンを始めたのは5歳の時。 「もっと早く始めたかったのですが、ようやくヴァイオリンを始められると聞いて、喜んでソファの上で飛び跳ねたときに、左手を骨折してしまったのです。そこで治るまでの期間は、バレエを習っていました。6歳で桐朋学園附属子供のための音楽教室に入り、8歳でオーケストラと初共演しました」 そして、2009年にはリピンスキ・ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールのジュニア部門でグランプリおよび特別賞を受賞。13年にはロシアのノヴォシビルスク国際ヴァイオリン・コンクールのシニア部門に飛び級で参加し、最年少グランプリを受賞するなど、世界的な評価も得た。10年からは日本、ヨーロッパなどでリサイタルを開催し、15年にはアシュケナージ指揮EUユース管弦楽団とスイス、イタリアで演奏を行うなど、その活動は早くも世界的なものとなっている。 そして、17年4月からは『究極の協奏曲コンサート』と題して、ピアノの辻井伸行とダブル・ソリストとして全国ツアーを行う(ニール・トムソン指揮 読売日本交響楽団、日本センチュリー交響楽団)。服部が演奏するのは、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番(東京、神奈川公演など)とチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(北陸、関西公演など)で、さらにエルンストの「『夏の名残のばら』による変奏曲」も毎回演奏する。なかなかに大変そうなツアーなのだが、「ブロン先生のレッスンはとてもハードなので、体力的にはぜんぜん問題ないと思います」と、とてもポジティブな答えが返って来た。 ショスタコーヴィチの録音で聴くことができる、素晴らしい音楽への集中力。それを実演で聴いてみたいという方も多いだろう。待ち遠しい公演である。Information辻井伸行(ピアノ) × 服部百音(ヴァイオリン)究極の協奏曲コンサートAプログラムショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番(服部)ショパン:ピアノ協奏曲第1番(辻井) 他ニール・トムソン(指揮) 読売日本交響楽団4/25(火) 宮城/イズミティ214/26(水) 岩手県民会館4/29(土・祝) よこすか芸術劇場4/30(日) 所沢市民文化センター ミューズ アークホール5/1(月)、5/2(火) 東京オペラシティ コンサートホールBプログラムチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲(服部)ショパン:ピアノ協奏曲第1番(辻井) 他ニール・トムソン(指揮) 日本センチュリー交響楽団6/3(土) ハーモニーホールふくい6/4(日) 富山/オーバード・ホール6/6(火) 愛知県芸術劇場 コンサートホール6/7(水) 兵庫県立芸術文化センター6/8(木) 大阪/フェスティバルホール6/10(土) 広島文化学園HBGホール※詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。http://avex.jp/classics/kyukyoku2017/
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