eぶらあぼ 2017.2月号
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158CDCDSACDCDブルックナー:交響曲第8番/ノット&東響アルベニス、グラナドスとスペインの歌/福田進一シュッツ&カニーノ play シューベルトシューマン:謝肉祭 他/中井正子ブルックナー:交響曲第8番(ノヴァーク版 第2稿)ジョナサン・ノット(指揮)東京交響楽団アルベニス:セビーリャ、マジョルカ、グラナダ/グラナドス:詩的ワルツ集、アンダルーサ/タレガ:アランブラの思い出、アラビア風奇想曲/サインス・デ・ラ・マーサ:ギター讃歌/アセンシオ:讃歌の組曲/モンポウ:歌と踊り第10番/鳥の歌 他福田進一(ギター)シューベルト:アルペジオーネ・ソナタ(グラーフ編)、6つの歌曲(ベーム編)「冬の旅」より「おやすみ」「菩提樹」・「白鳥の歌」より「漁師の娘」「セレナード」「海で」「鳩の便り」、「しぼめる花」の主題による序奏と変奏曲カール=ハインツ・シュッツ(フルート)ブルーノ・カニーノ(ピアノ)シューマン:謝肉祭、クライスレリアーナ、シューベルトの主題による変奏曲中井正子(ピアノ)収録:2016.7/16、サントリーホール(ライヴ)オクタヴィア・レコードOVCL-00608 ¥3200+税マイスター・ミュージックMM-3095-96(2枚組) ¥3900+税カメラータ・トウキョウCMCD-28343 ¥2800+税コジマ録音ALCD-7205 ¥2800+税詰められた細部の総和が全体の構成に直結しているあたりに知性派ノットの強みがあるが、この日のライヴは、設計図の再現にとどまらない緊張感に満ちた鮮烈なものだった。金管は欧州の楽団かと思うような粘りのある力強いブルックナー・サウンドを奏で、アンサンブルも精度が高いうえにどこをとっても精気が漲る。死力を尽くし表現をぎりぎりまで磨き上げた先に、陶然とした瞬間が幾度となく訪れ、ノット&東響が黄金時代を招来しようとしていることを実感した。話題を呼んだ2014年の就任以来の初コラボ盤だが「東京に東響あり」と世界に狼煙を上げる出来。待った甲斐があった。(江藤光紀)ギター愛好家や学習者にとって、必聴・必携のアルバムと言い切っていい。アルベニスやグラナドスをはじめ、この楽器にとってまさに“王道”と言うべき、スペインの作曲家たちの名旋律が、日本を代表する名手・福田進一の秀演で、一気に味わえるのだから。華麗な技巧は言わずもがな、冒頭に収録されたアルベニスの「セビーリャ」の第1音から、その音色が纏う強烈な陽光に驚くはず。しかも、同じ福田が紡いでも、バッハのそれとは全く異なるのだ。実は、2002年から3年をかけてのシリーズ録音からの再構成だが、高音質のリマスタリングにより、新たな命を吹き込まれた。(笹田和人)シュッツの音色は、聴く者に寄り添い、語り掛けるような優しい響きに包まれている。筆者はシューベルトの音楽から、「笑顔の裏にある痛みや悲しみ」を感じずにはいられないのだが、あらゆる感情が表裏一体となった彼の音楽と、シュッツの演奏はこの上なく合致している。特に「アルペジオーネ・ソナタ」では悲嘆と慈愛とが交錯するような感覚に陥った。これはシュッツが心から曲に共感し、歌を導き出しているからであろう。その証拠に、ベーム編曲による「6つの歌曲」では、詩の世界を細部まで理解したからこそ成し得る陰影の妙が、どんなに小さな音型からも聞こえてくる。(長井進之介)中井正子はドビュッシーやラヴェルなどのフランス・ピアノ作品のエキスパートとして知られるが、新譜ではドイツ・ロマン派のシューマンに取り組んだ。「謝肉祭」「クライスレリアーナ」「シューベルトの主題による変奏曲」はいずれもシューマンが20代の頃の所産。小品を積み上げることによって描き出される、シューマン特有の文学的世界や幻想的衝動を、中井の繊細なタッチが瑞々しく響かせる。未完の「シューベルトの主題による変奏曲」は2000年に出版されたA.ボイデの補筆版に基づき、作曲家の小鍛冶邦隆がさらに補筆した版であり、日本初録音となる。 (飯田有抄)

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