eぶらあぼ 2017.1月号
65/179

62たちよ、我らの愛は…〉には、まさしくフォーレ最後の歌曲なのに、命の蘇りを強く感じるのです。だから、4作全部を聴かれたなら、輪廻またはJ.ジョイスの小説『フィネガンズ・ウェイク』にある『終わりあるいは始まり』という感覚を連想されるかもしれません」 今回収録の4作とも、既にリサイタルでは披露済みとのこと。客席の反応が毎回二分して面白いという。 「音楽通の皆さんからは『なんでこんな地味な歌曲集を?』と不思議がられます(笑)。でも、初めてご来場の方ほど『ずっと浸っていたい、美しい響きですね』と仰るんですよ。2番目の『閉ざされた庭』は調性が明瞭で歌いやすく聴きやすいのですが、3番目の『幻影』は女性の私家版詩集による歌曲集で、それは不可思議な詩の世界です…。聴いて下さる方が、どの曲でも、ご自分の心を音楽に素直に委ねて下されば嬉しいです」CD『フォーレ イヴの歌◎閉ざされた庭◎幻影◎幻想の水平線』コジマ録音ALCD-7207¥2800+税2017.1/7(土)発売©Brigitte Enguerrand奈良ゆみ(ソプラノ)フォーレ最晩年の歌曲の安らぎと恍惚感取材・文:岸 純信(オペラ研究家)Interview 現代音楽の分野で世界的に知られるソプラノ、奈良ゆみ。恩師メシアンの歌曲集「ハラウィ」など、その多くのCDが定評のあるものだが、今回彼女が手掛けたのは、フォーレ最晩年の4つの連作歌曲集である。現代曲の尖りとは対照的な、幻想的で柔らかな近代の響きも、奈良の心と自然に呼応するもののよう。モニック・ブーヴェのピアノも美しい。 「留学先のパリで巡り合ったソプラノ、ノエミ・ペルージャは、私のそれまでの発声法や読譜力など、全てを壊し再創造して下さった先生です。彼女がフォーレの高名な歌い手であったので、私もフォーレをレパートリーに加えて、中期の作品を中心にした一枚は以前ベルギーで録音しました。でも、今回はノエミへのオマージュとして、最晩年の歌曲集に絞ってみました。聴覚を徐々に失ってゆくフォーレが、そこで作り上げたピュアな響きと独自の音楽語法が詰まった作品群です。『幽(かそけ)き』という言葉が一番合うかもしれません」ちなみに、この4作を1枚のアルバムに収録したのは、今回が世界初になるそう。 「そんなこと、全く知らずに録音しましたよ(笑)。特に『幻想の水平線』は女声が歌うこと自体が非常に珍しいようですが、私はただ『歌いたい!』という気持ち一つで向き合いました。4作ともドラマティックな起承転結を持つものではありませんが、魂の安らぎや天上の恍惚感を与えてくれる音楽だと思います。最初の『イヴの歌』の第1曲〈楽園〉は長大な曲で、イヴが生まれた時の歌なのに、やがて罪も死も経験する人生の無常観が既に漂っています。でも、おしまいの『幻想の水平線』の終曲〈船2017.1/26(木)~1/29(日) 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール問 横浜赤レンガ倉庫1号館045-211-1515 http://www.yokohama-dance-collection.jp/横浜ダンスコレクション 2017ダミアン・ジャレ|名和晃平『VESSEL yokohama』ダンスと彫刻で追究する“身体の表現”文:乗越たかお ベルギーを拠点とするダンサー・振付家ダミアン・ジャレと、彫刻家・名和晃平とのコラボレーションであるプロジェクト『VESSEL』は、これまで公演と回を重ねるたび、細胞分裂する胚のごとく急速な成長を見せてきた。今回は来年22回目を迎える横浜ダンスコレクションが横浜美術館と連携し、同美術館の企画展『BODY/PLAY/POLITICS』との協働プロジェクトの一環として上演される。 森山未來らダンサー達は首を強烈に前に倒して抱え込み、異形の肉塊のように蠢く。舞台中央にある白い沼のようなものは不思議な性質を持っており、力のかけ方次第で、液体のようにも固体のようにも振る舞う。そのためダンサーは沼に沈んだり、上を歩いたりできるのである。さらに舞台全体が一変するような驚きの仕掛けも用意されていた。 タイトル『VESSEL』は「船」や「器」「血管」という意味があるのだが、まさに静謐ながらも原初の生命の揺籃を見るような、エネルギーに満ちた舞台だといえる。横浜ではさらなる進化形が期待される。

元のページ 

page 65

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です