eぶらあぼ 2017.1月号
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59川瀬賢太郎(指揮) 神奈川フィルハーモニー管弦楽団迸るアイディアと弾ける感性文:柴田克彦飯森範親(指揮) 東京交響楽団華麗かつ壮大な2つの音楽の“物語”文:千葉さとし第326回 定期演奏会2017.1/21(土)14:00 横浜みなとみらいホール問 神奈川フィル・チケットサービス045-226-5107 http://www.kanaphil.or.jp/第95回 東京オペラシティシリーズ2017.1/21(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp/ 川瀬賢太郎の指揮はとみに躍動感を増している。各地の楽団への客演のみならず、日生劇場の《後宮からの逃走》でも生気が弾けていた。だがやはり常任指揮者を務める神奈川フィルで、最も真価が発揮されるに違いない。そこで1月の同楽団定期に熱視線が注がれる。これは2016年4月以来の「みなとみらいシリーズ」出演。この間、「フェスタ サマーミューザ」などで、こまやかさをも湛えた好演を聴かせているだけに、待望の登場と言っていい。 演目も彼らしくアイディアに富んでいる。前半はアレンジもの。まずバッハの「幻想曲とフーガ ハ短調」は、英国の大家エルガーが後期ロマン派風の大管弦楽用に編曲した版で、そのサウンドが高貴かつ壮大な“エルガー風”である点が実に面白い。おつぎはハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲のランパル編曲によるフルート版。民族色豊かで濃密な作品だが、管楽器のソロは息つく暇もない。挑むのは上野星矢。1989年生まれ 飯森範親と東京交響楽団によるポポーフの交響曲第1番の日本初演が大成功したのは記憶に新しいところだが、新年早々には再びその顔合わせでロシア・ソヴィエト音楽のコンサートを開く。 演奏会はリムスキー=コルサコフの名曲「シェエラザード」で始まる。欧州ツアーも成功させた東京交響楽団の名技が開幕早々から楽しめるわけだ。しかしこの曲はふだんならメインのはず、ではその後に何を演奏するのか? ここで飯森が選んだのは、めったに演奏されないプロコフィエフのカンタータ「アレクサンドル・ネフスキー」だ。なるほど並べてみればわかる、このプログラムは片やアラブの囚われの姫の、片やノヴゴロドの英雄の、2つの“音楽で聴く物語”を集めたものなのだ。 エイゼンシュタインの映画のための音楽によるカンタータは支配からの解放を求める凄絶な戦闘から鎮魂、そして栄光を描き出す。ソヴィエトに帰国したプロの彼は、2008年に権威あるランパル国際フルート・コンクールで優勝した超逸材。パリ国立高等音楽院卒業後、欧州を拠点に活躍し、CDも人気を集めている。この俊英の妙技は大注目だし、ランパル・コンクール時の指揮者だった川瀬との縁のあるコラボレーションにも期待したい。 後半はラフマニノフの交響曲第3番。コフィエフの充実した作品の、ほぼ全編でオーケストラに負けない主役として活躍する合唱にはぜひ注目してほしい。来る新シーズンに創設30周年を迎える東響コーラスには大きな期待がかかる。そして第6曲で印象的な祈りを歌う独唱にアメリカ亡命後に書かれた稀少な作品の1つで、ロシアへの憧憬と円熟の洗練が融合した、第2番にも劣らぬ名曲だ。川瀬も「ラフマニノフの作品の中でも特に充実した1曲」と語るだけに、全力投球の熱演が待っている。 ここは、気鋭の指揮者とソリストの輝く感性を体感しよう!はエレーナ・オコリシェヴァを迎える。ボリショイ劇場で活躍する彼女を得たことで、ドラマはより深みを得ることだろう。 この充実した顔ぶれが描き出す“物語”で、飯森範親と東京交響楽団は再び我々を驚かせてくれるはずだ。上野星矢 ©Matt Dine川瀬賢太郎 ©Yoshinori Kurosawaエレーナ・オコリシェヴァ 飯森範親 ©川崎 領
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