eぶらあぼ 2017.1月号
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163 オレが今年の4月にフランスの現代サーカスをリサーチしてきたことはこの連載でも書いたが、フランスの場合はアーティスティックで、サーカスらしさを前面に出さない作品も多い。しかしカナダはその辺ガッツリと技術の強さを打ち出している。 グラビティ&アザー・ミズは狭いエリアで筋肉系のアクロバットをやる。延々と数人でバク転し続け、失敗したら脱ぐ、という「こんな序盤で体力を使い果たしてどうする」と心配するネタが満載だ。むろん最後の一枚も脱ぐ。てか脱がされる。その瞬間、さっと手で股間を隠す、という、まあよく練られたネタだ。ハラハラドキドキはサーカスの醍醐味だが、観客が成功を見守るリアリティ・ショーのようでもあるな。 一番面白かったのはフリップ・ファブリック。舞台一面にコンテナを積んだような美術で、そのうちの1つに詰め込まれた連中が出て来るところから始まる。ジャグリングからアクロバット、トランポリンと、とにかく芸達者な連中である。キャラクターも豊かでストーリーもいい。女性演者の一人は生まれてくる子どもを夢想する役だったが、じつは本当に妊娠中なのだという。かなりアクロバットをバンバンやってたんだが、すげえなカナダ。 さてこの原稿はソウルで書いている。このあとはイスラエルへ移動だ。またフレッシュな情報をお送りしますよ!第27回 「カナダの巨大フェス、シナールでダンスとサーカスを見る」 1980年代コンテンポラリー・ダンス誕生の中心になったのはフランス・ドイツ・ベルギーだが、もう一つ重要だったのが、カナダのフランス語圏ケベック州だ。ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップスやマリー・シュイナールなど、時代を牽引するダンスカンパニーを輩出した。 このケベック州が誇る巨大な国際フェスCINARS(シナール)へ行ってきた。11月14日から6日間、公式には「39のイベント、59のオフィシャル公演、85のオフ公演」というとんでもない規模で、演劇・ダンス・音楽・サーカス等々もりだくさんだ。このオフがまあ数は多くて面白そうなものが多い。スケジュールは自分で組まなければならない。しかもけっこう辺鄙なスタジオでやっていたりするので、地下鉄とバスを乗り継いでいくこともしばしば。そんなときに役に立つのがフェスが提供しているスマホ用の専用アプリだ。 これがまあすごい。全ての演目の情報、参加ゲストの情報、劇場の場所、さらに自分の現在位置が表示されるのである。しかも、なんとWi-Fiにつながっていない状態で、地図表示を含めた機能が使える。けっこうな確率で劇場の場所がトンチンカンな場所を指し示している以外は、超便利なアプリである。 オフィシャルは様々な国からの招聘作品で「国際フェス」の部分を担保しておいて、オフの部分で大量の地元ケベックのカンパニーを紹介して(海外カンパニーも散見するけど)見本市としての機能を持たせているのがうまいね。 シュイナールがボッシュの『悦楽の園』をモティーフにしたダンス等も良かったが、さらによかったのが現代(コンテンポラリー)サーカスである。Prifileのりこしたかお/作家・ヤサぐれ舞踊評論家。『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』『ダンス・バイブル』など日本で最も多くコンテンポラリー・ダンスの本を出版している。うまい酒と良いダンスのため世界を巡る。http://www.nori54.com乗越たかお

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