eぶらあぼ 2016.12月号
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70CD『アルベニス:入り江の ざわめき スペイン・ ピアノ名曲集』マイスター・ミュージックMM-3092 ¥3000+税11/25(金)発売細川夏子(ピアノ)“感謝の想い”をスペインの調べに込めて取材・文:飯田有抄Interview スペイン音楽の放つ華々しいパッセージ、そこはかとなく漂う哀愁。ピアニスト細川夏子は、幼少期からその魅力に惹き付けられた。 「幼稚園のころ、声楽家だった母がスペイン歌曲のレコードを何回かかけていたらしいのですが、私の頭のなかではそれが延々と鳴り続け、ずっと聴いていたという記憶として残っています。両親とよくN響のコンサートにも行きましたが、スペインの作品ばかりがお気に入りでした。5歳から始めたピアノは、ドイツの古典ものばかりがレッスンで与えられるので、スペイン音楽が弾きたいと思っていました」 高校生の頃、NHKスペイン語番組の若い講師が自宅にホームステイしていた。 「マドリード出身の彼女から、スペイン語だけでなくカスタネットやフラメンコも教わりました。スペイン料理店などがまだ日本にあまりなかった時代です。ホームシックにかかった先生を励ますのは大変でした(笑)」 国立音大卒業後、強く憧れていたフランス・クリダに師事するためパリのエコール・ノルマル音楽院へ留学。 「リスト弾きとして知られるクリダ先生からは『あなたはフランスで活躍した外国人の作品が向いているわ』と言われ、グラナドス、アルベニス、ファリャらの珍しい作品をたくさん教えていただきました」 そんな細川の新譜『アルベニス:入り江のざわめき スペイン・ピアノ名曲集』は、想いがたくさん詰まったアルバムだ。スペイン大使館後援による2014年日西交流400周年記念リサイタルのライヴ録音に次ぐ、2作目のCDとなる。 「アルバムのテーマは『海』です。スペインの海沿いの街の風景を主に描いた作品を選曲しました。スペイン音楽は、船による地中海交易により交流があった、ギリシャ、イタリア、トルコ、アラブ諸国、北アフリカなどの、原色のような色彩感も混在する、興味深い音楽です」 アルバム前半はアルベニス、後半はグラナドスの小品だ。 「両者とも素晴らしいピアニストでしたが、アルベニスの音楽はテクニカルで放浪型、グラナドスは内省的で定着型と言えるかもしれません。アルベニスの最初の3曲『入り江のざわめき』『グラナダ』『コルドバ』はギター曲としても有名です。グラナドスの『アストゥリアーナ(サルダナ)』は、男女が輪になって手を取り合う舞曲を題材としています。この曲を録音中、これまで私が出逢ったいろいろな方への想いが自然と湧き、『感謝の輪が広がる作品だ!』と実感しました」 今後も細川はスペインの秘曲・名曲の調査を重ね、「積極的にお伝えしていきたい」と目を輝かせた。2017.1/13(金)15:00 19:30 Hakuju Hall問 Hakuju Hallチケットセンター03-5478-8700 http://www.hakujuhall.jp/第121回 スーパー・リクライニング・コンサート 青山 貴(バリトン)ノーブルなバリトンの美声で聴く日本のうた文:宮本 明 おなじみのHakuju Hallスーパー・リクライニング・コンサートに青山貴が登場。オペラにコンサートに、いま一番美しい声の日本人バリトンの筆頭が彼だろう。メンバーとして活躍する男声アンサンブル「イル・デーヴ」では、いじられキャラというのか、朴訥な人柄も客席を湧かせる彼だが、歌うとすごい。たちまちノーブルな二枚目バリトンに変身する、そのギャップがたまらないというファンも多いはずだ。 発表されている曲目は、山田耕筰、中山晋平の古典から、中田喜直「海四章」、間宮芳生の「日本民謡集」より。料理のレシピがそのまま歌になったユニークな「あんこまパン」(林望作詞/伊藤康英作曲)、さらに2009年奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門最高位の注目株・前田佳代子による作品など。明治から平成まで、日本歌曲のさまざまな展開を楽しませてくれそう。ピアノは高田絢子。リクライニング・シートで眠ってしまってもかまわないというユニークなシリーズではあるものの、きっと、寝てる場合ではない!

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