eぶらあぼ 2016.11月号
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55ニコライ・ホジャイノフ(ピアノ) 新世代ピアニストが醸し出す弱音の美文:高坂はる香ジョナサン・ノット(指揮) 東京交響楽団いま最も熱いコンビで聴くロマン派と現代の傑作文:江藤光紀11/28(月)19:00 浜離宮朝日ホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp他公演11/19(土)彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール(0570-064-939)11/20(日)大阪/いずみホール(大阪新音06-6341-0547)第647回 定期演奏会 12/3(土)18:00 サントリーホール第58回 川崎定期演奏会 12/4(日)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール問 TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 http://tokyosymphony.jp ホジャイノフは、聴衆を自らの音楽世界に引き込む、特殊な魅力を持つピアニストだ。ロシア生まれの24歳。6年前、ファイナリストとなったショパン国際ピアノ・コンクールで一躍注目され、その後2012年ダブリン国際ピアノ・コンクールに優勝、同年シドニー国際ピアノ・コンクールで2位に入賞した。しかし彼の場合そうしたタイトルよりも、一度聴いたら癖になる深く繊細な音楽自体で、世界各地で着実にファンを増やしている印象がある。昨年からは長らく学んだモスクワを離れ、ハノーファー音楽大学で研鑽を積む。 今回は、ロマン派の作品を集めたプログラム。ショパンからは「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」と、ワルツ第6番「小犬」、第9番「告別」、第10番。優美な舞曲で、繊細に揺れるリズムの妙を楽しませてくれそうだ。また、ベッリーニのオペラ《清教徒》からの主題に基づき6人の作曲家が合作し 7月のノット&東響のブルックナー8番は、筆者にとってちょっとしたセンセーションだった。整った軽めのサウンドというイメージをひっくり返し、ノットは東響から重厚なブルックナー・サウンドを引き出した。オーケストラもノットの緻密な解釈を献身的に音にした。緊張感あふれる名演だった。 いま最も熱い両者、12月定期もぜひ聴いておきたい。最初にワーグナー《トリスタンとイゾルデ》第1幕への前奏曲。バンベルク響を率いルツェルンで上演した《リング》や昨年の東響との《パルジファル》抜粋など、ノットはワーグナーも積極的に取り上げている。この音楽史上の重要作でも筋の通った解釈を見せてくれるのではないか(全曲上演にもぜひチャレンジしてほしい!)。後半はシューマンの交響曲第2番。一見野暮ったいところもあるが、アプローチによっては驚くほどの効果をあげる曲だから、知性派ノットの面目躍如を期待。 間に置かれるのは、フランス現代音た「ヘクサメロン変奏曲」は、実演を聴く機会の少ない作品。リストによる序奏と主題に続く、タールベルク、チェルニー、ショパンなど19世紀に活躍した作曲家の手による変奏曲を、ホジャイノフが鮮やかに弾き分ける。そして後半で演奏するのはシューマン。「幻想曲」では、夢と現実の間を彷徨う作曲家特有の世界観を描き出すだろう。 ロシアのピアニストらしい確かなタッチで鳴らす華やかな音も魅力だが、やはり彼の美点は、磨き抜かれた弱音と、静寂を聴かせる表現力。ピアノを聴くのにぴったりの会場で、響きをすみずみまで味わいたい。楽の大家デュティーユのチェロ協奏曲「遙かなる遠い国へ」。世界のトップチェリストたちが次々に取り上げている作品で、今回はヴィルトゥオジティにも定評があるヨハネス・モーザーが登場。デュティーユは2013年に亡くなったが、今年生誕100年を迎える。フランス人らしく緻密で繊細な管弦楽法に特徴がある。 ノットは以前、フランスの現代音楽集団アンサンブル・アンテルコンタンポランを率いるなど、現代ものにも滅法強い。今回は《トリスタン》前奏曲とデュティーユを連続して演奏するというが、どんなアイディアが隠れているのか、ワクワクさせられる。ヨハネス・モーザー ©Uwe Arensジョナサン・ノット ©K.Miura

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