eぶらあぼ 2016.11月号
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54楽を届けるつもりです。そこにどんな世界が広がっているのか…もしかしたら、聴いている方自身の姿がその世界に投影されるのかもしれません。そのようなことも楽しみにしていただけたらと思います」 同時期にリリース予定の新譜『LE GACY』は、ベートーヴェンとショパンの名曲集。黒岩の周囲には、クラシック音楽をほとんど知らない友人も多いことが選曲の理由だ。 「身近な人を大切にしたい。この録音がクラシックに馴染みがない方にとっての入口になればと思います」黒岩 悠 ピアノリサイタル過去~現在~未来11/30(水)19:00 浜離宮朝日ホール問 日本アーティスト03-5377-7766http://www.haruka-kuroiwa.comCD『LEGACY』アルトゥス・ミュージック ALT349 ¥オープン11月末発売予定©Marco Borggreve黒岩 悠はるか(ピアノ)“真実”の音楽を伝えるために取材・文:高坂はる香Interview 音楽一家に生まれ、イタリア、ドイツで優れた音楽家のもと研鑽を積んだ黒岩悠。「演奏家としての覚悟をもう一度確かめたい」と、「過去~現在~未来」と題したリサイタルを行う。 「最近、結局大切なのは人だと感じています。丸ごと自分を受け入れ、自分の個性を認識し直したい。そんな想いで演奏会に臨みます。人は多面体で、その側面の一つひとつが重なったものが“個性”。コンサートでは、演奏者も聴衆も音楽も、それらの個性がつながった一つのものになると思うのです」 その大切な真実を伝えるため、今回は3つのパートにわけて幅広い時代の作品を弾く。一つめの「過去」で掲げるテーマは「文学の時代」。 「古い時代の文学や音楽は、人が共通して持つ、愛や死、苦悩や喜びを深い精神性の中で捉え、表現しています。当時の人はみんなそれを知りたいと感じていたのでしょう。『過去』では、そこが前面に出た曲を選びました」 なかでもシューベルトの「白鳥の歌」より〈セレナーデ〉は、子供時代の音楽体験を象徴する曲だ。 「父(指揮者の黒岩英臣)の演奏会で交響曲を聴いても、小さかった僕は退屈してしまいました。でも、車の中で繰り返し流れていた〈セレナーデ〉は、全てを包み込んでくれるようで、ずっとその歌の世界の中にいたいと感じたのです。今回はリストの編曲で演奏します。僕にとってリストは特別な作曲家。彼は自身の中に神聖なものと悪魔的なものを持ち合わせていた。それが感覚的に理解できるのです」 続く「現在」のテーマは「ヴィジョンの時代」。 「20世紀は戦争や革命の中で芸術が発展した時代です。移動手段も増え、人が世界を個人的視点で見て描写するようになりました。スクリャービンに加え、墨絵のように美しい薮田翔一の『住吉の松』、音楽の楽しさが存分に伝わるカプースチンを取り上げます」 そして「未来」で奏でるのは、J.S. バッハ。 「人間のエゴから離れ、与えられた命を喜ぶ音楽です。時代を超えて、人にとって喜びであり続けるでしょう。これからも、生きるものすべてが自らの命を祝福できる社会であってほしいという想いを込めています」 練り上げられたプログラムには、こんな大きな意図が隠されていた。 「フィルターを通さずに、まっすぐに音11/20(日)14:30 よみうり大手町ホール問 グローバルアーツ03-5981-9175 http://www.koriaiko.com郡 愛子(メゾソプラノ)40周年記念リサイタルⅢ永遠のテーマ~愛といのちを歌う記念コンサートのラストはジャンルを超えた名曲で文:宮本 明 1975年に日本オペラ協会公演の三木稔のオペラ《春琴抄》(初演)でデビューしたメゾソプラノの郡愛子。昨年11月にはデビュー40周年を迎え、東京芸術劇場コンサートホールに満員のファンを迎えてその節目を華々しく祝った。しかしオペラ界きってのサービス精神の持ち主の彼女のメモリアルは、それだけでは終わらなかった。今年6月にはピアノに藤原義江の孫娘・藤原藍子を迎えた“Wアイコ”で第2弾。そして11月、記念リサイタル最終公演となる第3弾『永遠のテーマ~愛といのちを歌う』がよみうり大手町ホールで行なわれる。丸1年かけての3公演。「あれもこれもと考えていたら1回で収まらなくなってしまった」と笑うが、趣向も編成も曲目も異なる3公演を企画するバイタリティだけでもすごい。まさに規格外のエネルギーが横溢する最終公演となるにちがいない。藤原歌劇団メンバーによる男声クァルテット「クアットロアリア」と尺八の田中黎山がゲスト出演。ピアノは松本康子。

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