eぶらあぼ 2016.11月号
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40©Decca/Friedrun Reinholdアカデミー室内管弦楽団のメンバーと(最前列左がマリナー)40追悼ネヴィル・マリナーNeville Marriner 1924〜2016 イギリスを代表する指揮者のひとりであり、長老格として多くの音楽家や聴き手に愛されてきたネヴィル・マリナーが、この10月2日に92歳で天国へと召された。ここ数年だけでも日本には数回来日し、NHK交響楽団や兵庫芸術文化センター管弦楽団などに客演。今年の4月には自らが結成に関わり、終身総裁(Life President)というポストを与えられていたアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ(アカデミー室内管弦楽団、略称ASMF)と共に来日。ベテランの至芸と言えるような神々しい演奏を聴かせてくれている。2017年にも来日が予定されていたため、楽しみにしていた方も多いだろう。 1924年にイギリスのリンカンシャー州に生まれたマリナーは、フィルハーモニア管弦楽団、ロンドン交響楽団(LSO)などにヴァイオリニストとして在籍。LSOでは54年から退団する69年まで第2ヴァイオリンの首席奏者を務めていた。その一方、58年には仲間たちとバロック音楽を演奏するため、ロンドンの中心にある聖マーティン・イン・ザ・フィールズ教会を拠点としたASMFを結成している。当初はそこでもヴァイオリンを弾いていたがメンバーの要請で指揮も始め、ASMFの指揮者として名前が広まっていく。コンサート活動はもちろん、マリナーとASMFの知名度を上げたのは活動当初から積極的に行ってきたレコード録音だ。折しも古楽復興の運動が盛んになりつつあったイギリスで彼らの活動は独自性をもち、その後に続く多くの古楽アンサンブルへ多大な影響を与えたのは間違いない。 しかしマリナーとASMFのレパートリーはバロック音楽にとどまらず、現代の作品も含む豊かなものであり、それにしたがってマリナーの活動範囲も拡大。ミネソタ管弦楽団の音楽監督(79〜86)、シュトゥットガルト放送交響楽団の首席指揮者(83〜89)といったフル・オーケストラのポストを歴任し、92年以降はスペインのカダケス管弦楽団とも深いつながりがあった(最終的なポストは桂冠指揮者)。日本にも多くのオーケストラへ客演しており、大切な思い出をもつ方も多いだろう。加えて85年に日本公開され、アカデミー賞を多数受賞した映画『アマデウス』の音楽監督も務め、モーツァルトのスペシャリストとして評価を高めたことも特筆すべきことだ。 もしあなたがフル・オーケストラの指揮者として評価されていたマリナーしか知らないのだとしたら、60〜70年代に「四季」や「ブランデンブルク協奏曲」等の名曲を刷新し、小編成によるベートーヴェンやシューベルトの交響曲全集などを録音した彼の功績も知っていただきたいと思う。常にその音楽は若々しく、英国流のノーブルな香りを漂わせていた。私たちは幸運かもしれない。これからもマリナーが残した(カラヤンにも匹敵する)膨大な録音を再評価する楽しみが残されているのだから。文:オヤマダアツシ

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