eぶらあぼ 2016.11月号
41/217
Presented by Suntory Hall サントリーホール30周年の大規模な祝祭のなかでも、一際大きな注目を集めるのが、11月12日に行われる大野和士指揮の東京都交響楽団による演奏会である。30周年記念委嘱作として、英国を代表する作曲家、マーク=アンソニー・ターネジの「Hibiki」が世界初演される。 世界最高のコンサートホールの一つとして国際的にも名高いサントリーホールの記念演奏会のためにターネジへの新作委嘱を提案したのは、他ならぬ大野だった。 ターネジは、1960年生まれ。大野と同い年である。ロンドンのロイヤル・オペラ・ハウス委嘱作《アンナ・ニコル》の大成功をはじめ、現代オペラ界最重要の作曲家の一人として知られると共に、熟達の書法が輝く幾多のオーケストラ作品を生み出し、S.ラトルをはじめ、D.ハーディング、A.ネルソンス、V.ペトレンコらが挙って彼のスコアを取り上げる「人気作曲家」として、既に四半世紀、音楽シーンを牽引してきた。 大野はターネジと旧知の仲だ。王立モネ歌劇場の音楽監督時代、管弦楽作品を録音しているし、何より、それに先立つ1998年、日本における英国祭「UK98」において東京フィルを振り、委嘱新作「沈黙の都市」の世界初演を行っているのだ。爾来、2人は強い絆で結ばれ、今日に至っている。 一方で、ターネジはサントリーホールにも浅からぬ縁がある。初期の代表作の一つ、《3人の叫ぶ教皇》は、武満徹からの示唆もあり、同ホールの夏の名物「サマーフェスティバル」で日本初演が行われ、若き俊英の名を一躍ファンの間に広めるところとなったのである。 大野は、完成した新作「Hibiki」のスコアに大いに満足している様子だ。とりわけ、今や、押しも押されもせぬ大家への道を歩んでいるターネジが、サントリーホールについて、そして日本の今について、斯くも真摯に思いを巡らせ、創作に取り組んだことに大いなる感銘を受けた。その一端は、ターネジ自身によるテクストの選択にも明確に表れている、と彼は言う。空襲で母を失った自らの戦争体験に基づく宗左近の詩「走っている」、19世紀初頭、ロンドンで出版された後、世界中に広がり、誰もが知る童謡ともなった「きらきら星」、そして近松の『曾根崎心中』の「道行」、という時代も背景も異なる3つのテクストは、何の脈絡もないようでいて、その実、人間の生と死を見つめた深層において繋がり、一つの宇宙を形作っているのだ。 2人の独唱と児童合唱、そして管弦楽による作品は7つの楽章からなる。岩手、宮城の名を冠したはじめの2楽章は、管弦楽。上述のテクストを歌う声楽が加わる3楽章が、文字通り祝典的な「サントリー・ダンス」を挟んで続いた後、児童合唱がシンプルに歌う「Fukushima」が全曲を締めくくる。2人の名歌手、ミヒャエラ・カウネと藤村実穂子、さらに東京少年少女合唱隊、と初演に臨む布陣も盤石だ。 加えて、1986年10月12日、サントリーホールこけら落としの演奏会の冒頭を飾る作品として委嘱された芥川也寸志の「響」が、再びホールの空間に帰って来る。オルガンに俊英・鈴木優人を迎えることも目を引く。 30年の時を経て大きなアーチを築く2つの響き。煌びやかな祝祭とずっしりと確かな手応えが音楽へと昇華する忘れ難い一夜となるだろう。イギリス作曲界の鬼才による注目の新作がいよいよ世界初演!文:岡部真一郎マーク=アンソニー・ターネジ ©Philip Gatward曲目芥川也寸志:オルガンとオーケストラのための響(サントリーホール落成記念委嘱作品/1986)マーク=アンソニー・ターネジ:Hibiki(サントリーホール30周年記念委嘱作品/2016)大野和士(指揮) 東京都交響楽団鈴木優人(オルガン) ミヒャエラ・カウネ(ソプラノ) 藤村実穂子(メゾソプラノ) 他11/12(土)18:00 サントリーホール問 サントリーホールチケットセンター0570-55-0017http://suntory.jp/HALLサントリーホール30周年記念作曲委嘱
元のページ