eぶらあぼ 2016.10月号
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70山田和樹プロデュース 柴田南雄 生誕100年・没後20年記念演奏会山田和樹が次代につなぐ ~ゆく河の流れは絶えずして~“知の巨人”の遺産を受け継ぐ文:飯尾洋一マレイ・ペライア(ピアノ) 選曲の中に人生経験と現在の思いを見る文:江藤光紀11/7(月)19:00 サントリーホール問 東京コンサーツ03-3200-9755 http://www.tokyo-concerts.co.jp10/31(月)19:00 サントリーホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp他公演10/28(金)浜離宮朝日ホール(03-3267-9990) 今年記念の年を迎えた日本の作曲家といえば? 没後20年を迎えた武満徹、没後10年の伊福部昭、そして柴田南雄の生誕100年&没後20年! 日本を代表する作曲家としてのみならず、音楽学者、音楽評論家としても活躍した柴田南雄。その著作やラジオ放送などを通じて蒙を啓かれた音楽ファンは多いはず。しかし、その作品の演奏機会となると、とても十分とはいえないだろう。そんな現状を見かねて、立ち上がったのが山田和樹だ。フルオーケストラと合唱を要する大作「ゆく河の流れは絶えずして」をはじめ、管弦楽のための「ディアフォニア」、シアターピース「追分節考」を、日本フィル、東京混声合唱団らとともに11月7日に演奏する。初めて柴田作品に触れた際に「人生損していた」と本気で思ったという山田和樹の熱い思いが、今回の公演を実現させた。3曲の共通項は「時間と空間の超 若いころからホロヴィッツ、ホルショフスキといった歴史的な演奏家と交流を持ち、その薫陶を受けてきたペライア。磨き込まれた音の美しさと端正かつ実直なアプローチは早くから評価されてきた。とはいえ90年代以降はたびたび指の故障に悩まされるなど、その道のりは決して平たんではなかった。近年、厳しいコントロールの下でもますます自由に呼吸する境地に達してきたのは、このプロセスがあればこそだろう。 今回はとりわけ、現在のペライアの胸中を推し量りたくなるプログラムだ。憂いを帯びたハイドンの「アンダンテと変奏曲」の後に、モーツァルトのソナタ第8番。母の死と前後して作曲されたと言われ、激しいパトス、疼きにも似た感情が心を打つ。短調の古典派2曲に続けて、ブラームスの晩年のop.116・118・119のピアノ曲集から5曲。どれも柔和でこなれた表情を持つが、ニュアンスは一つ所にとどまらず刻々と変化し、光と影の微妙な交錯を捕まえていく。越」だという。 「ゆく河の流れは絶えずして」とは、鴨長明の『方丈記』冒頭の一節。日本の古典を題材としつつ、古典派からロマン派、前衛まで、さまざまな音楽様式を駆使し、しかも会場全体を用いた即 そして後半はベートーヴェンの「ハンマークラヴィア」。高い集中力を40分以上に渡り保持しながら、スケールの大きな音楽を紡がなければならない。音楽表現の可能性を押し広げた記念碑的な作品だ。青年期の憂いや悲しみ、穏やかでありながら複雑な老年の胸中を対比させた前半から、巨大な伽藍を打ち立てる後半へ。ここにペライアの人生経験や、現在の思いを見るのはうがちすぎだろうか。 サントリーホールは音が良く残り、生興的なシアターピースでもあるというこの大作は、1975年に初演され、以降89年に再演されたのみ。今聴くことで、その先駆性を改めて感じることになるかもしれない。日本人として、日本の音楽を再発見する好機が訪れた。き生きしていて、聴衆も真剣。ペライア自身、とても気に入っているホールだという。滋味あふれるピアニズムに浸りたい。山田和樹 ©山口 敦©Felix Broede柴田南雄
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