eぶらあぼ 2016.10月号
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プラハ国立歌劇場 《魔笛》《ノルマ》2大名作オペラで聴く、麗しきディーヴァたちの饗宴!文:岸 純信(オペラ研究家)ベッリーニ《ノルマ》10/22(土)15:00 よこすか芸術劇場(046-823-9999)、11/5(土)、11/6(日)各日15:00 Bunkamuraオーチャードホール(コンサート・ドアーズ03-3544-4577)モーツァルト《魔笛》11/4(金)15:00 Bunkamuraオーチャードホール(コンサート・ドアーズ03-3544-4577)他公演《ノルマ》10/26(水)福岡シンフォニーホール(092-725-9112)、10/30(日)オリックス劇場(キョードーインフォメーション0570-200-888)、11/3(木・祝)愛知県芸術劇場(中京テレビ事業052-957-3333)《魔笛》10/15(土)神奈川県民ホール(神奈川芸術協会045-453-5080)、10/16(日)東京エレクトロンホール宮城(河北新報社 企画事業部022-211-1332)、10/18(火)盛岡市民文化ホール(019-621-5100)、10/23(日)ソニックシティ(048-647-7722)、10/28(金)松山市民会館(eatインフォメーション089-946-2888/愛媛新聞社読者事業部089-935-2355)、10/29(土)びわ湖ホール(キョードーインフォメーション0570-200-888)、10/31(月)石川/本多の森ホール(石川テレビ放送 事業部076-267-6483)オペラ ガラコンサート10/14(金)茨城/ノバホール(029-856-7007) モーツァルトの曲には、脳を活性化させる力がある、という。それは、音楽ファンのみならず、演奏現場のアーティストたちも日々感じ入る境地だろう。規則正しいリズムで背筋が伸びて、メロディから音の粒が勢いよく弾け飛ぶさまが、まるで炭酸泉浴のような心地よさを、耳から体内へともたらすのだ。だから、ピアニストでも歌手でも、「モーツァルトを演奏すると体調が良くなる」と話す人が多い。筆者のような書き手も、頭が煮詰まったと思ったらモーツァルトを聴きたくなるのである。 このモーツァルトの生存当時から彼の音楽に心からの拍手を送り続けたのが、チェコの大都市プラハの人々である。《フィガロの結婚》が大ヒットし、《ドン・ジョヴァンニ》が世界初演されたのは周知の通り。彼らの母語は勿論チェコ語だが、早くからイタリア語やドイツ語のオペラにも親しんできただけに、市中には複数の劇場が並び立ち、それぞれ個性を競っている。注目のエカテリーナ・レキーナが登場! さて、東欧随一のこの音楽都市から、名門プラハ国立歌劇場が10月から11月にかけて、待望の再来日を果たす。演目は超有名な2つの人気オペラ(指揮はリハルド・ハイン、ペーター・ヴァレントヴィッチ)。その一つがモーツァルトの《魔笛》である。ドイツ語で歌われ、曲と曲の間にセリフが入るこのオペラは、子供からシニア層まで、幅広い世代を惹きつける名作中の名作。物語は童話仕立てながら、正と悪、高潔さと人間くささを対比させ、酔っぱらった鳥刺しパパゲーノの楽しい歌から、怒りに燃える夜の女王の凄みあるアリアまで、多彩な響きが客席を包み込む。なお、今回のキャスティングでひときわ注目されるのは、その女王役を演じるソプラノ、エカテリーナ・レキーナだろう。力強い声音が華々しい最高音域に駆け上がるその時、格別の迫力が舞台に漲るのである。まずは第2幕の情熱的な〈復讐のアリア〉をお聴き逃しなく。ベルカント・オペラの最高峰《ノルマ》 そしてもう一つが、イタリアならではの旋律美を誇る《ノルマ》。古代の巫女ノルマが敵方の総督と密かに愛し合うものの、やがて男に裏切られるというドロドロの恋愛劇だが、作曲者ベッリーニの瑞々しいメロディがドラマの品格を大いに高めるので、初演以来、名だたるプリマドンナが好んで歌うベルカント・オペラの名作になっている。 今回の来日公演では、オペラ界を代表する2人のディーヴァ、エディタ・グルベローヴァとディミトラ・テオドッシュウが競演するとのこと。それだけに、ファンの期待も煽られて、すでに完売御礼となった公演もあるという。ただ、都内のステージだけでなく、よこすか芸術劇場(テオドッシュウ出演)でも上演される予定なので、この名作に触れるチャンスはまだ残っている。 ベッリーニは、歌手に遠慮することなく、とてつもなく難しい音楽を書いたことで有名な作曲家。ノルマの役も、祈りのアリア〈清らかな女神よ〉では涼やかな響きが求められ、男の裏切りに怒る三重唱では、威圧感のある歌声がこれでもかと要求される。一方、若い恋敵との和解の二重唱では、柔らかな音の連なりのもと、冷静さを取り戻した彼女の胸中が豊かに描かれるが、それらはまるで、何人分もの喉の力を一人のソプラノに要求するような、至難の連続技なのだ。観る人にとっても歌う人にとっても、イタリア・オペラの最高峰であり続ける《ノルマ》の魅力を、名ソプラノたちの飛び切りの美声で体感してほしい。52エディタ・グルベローヴァ©http://lukasbeck.comディミトラ・テオドッシュウ©坂田栄一郎エカテリーナ・レキーナ
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