eぶらあぼ 2016.10月号
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34モーツァルト:歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》(演奏会形式)指揮&ハンマーフリューゲル:ジョナサン・ノット管弦楽:東京交響楽団舞台監修&ドン・アルフォンソ:トーマス・アレンフィオルディリージ:ミア・パーション ドラベッラ:マイテ・ボーモン デスピーナ:ヴァレンティナ・ファルカスフェルランド:ショーン・マゼイ グリエルモ:マルクス・ウェルバ 合唱:新国立劇場合唱団12/9(金)18:30 ミューザ川崎シンフォニーホール問 ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200http://www.kawasaki-sym-hall.jp12/11(日)15:00 東京芸術劇場 コンサートホール問 東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296http://www.geigeki.jp 2011年の初共演以来、常に話題を呼んでいる音楽監督ジョナサン・ノットと東響のコンビ。この12月には、ノット念願の演奏会形式によるオペラに進出する。演目はモーツァルトの《コジ・ファン・トゥッテ》。キャリアの初期からオペラ指揮者としても盛んな活動を続けてきたノットならではのプログラミングだ。記念すべき初オペラ作品に《コジ》を選んだ理由は? 「《コジ》は演奏会形式で上演するのにぴったりの作品です。登場人物も少ないし、合唱の規模も小さい。歌手を身近に感じられるのが演奏会形式によるオペラの利点ですが、それに適していると思います。また《コジ》の場合、衣裳をつけた上演だと、恋人が変装しているのがわからないのはおかしい、などと思ってしまいますが、衣裳のない演奏会形式だとイマジネーションで補えますから、そのような矛盾を感じにくいのではないでしょうか」 恋人たちが相手を取り替えてしまうという《コジ》の物語は、共感しづらいという声も少なくない。 「とても人間的なストーリーだと思うのです。誰でも恋をしますよね。それが1回ではなく、2回だったという話で(笑)。人生で不誠実だったりとか、混乱してしまう経験は誰にでもあることだし、人生や人間関係に何を求めるのか、疑問に思う時期もあると思う。《コジ》ではそのようなことが重要なテーマなのです。結末に疑問が残るのも、とても人間的だと思います」 《コジ》の音楽の魅力についても、ノットは雄弁だ。 「モーツァルトの後期の作品ですからとても完成度が高く、1音たりとも無駄がありません。ドラマティックでありながらパッションとウイットがあり、知的な笑いに満ちている作品です」 豪華なキャストも今回の目玉。名歌手トーマス・アレンをはじめ、ミア・パーション、マルクス・ウェルバなど、世界の第一線で活躍する歌手たちが登場する。 「夢のようです。知っている歌手ばかりだし、共演した方もいます。これだけの顔ぶれですから、カットなしの完全版をやります。この音楽の素晴らしいところをすべて聴いていただきたい。東響もこの手のレパートリーに長けていて、彼らの様式、音を持っている。私にとっては宝物です」 今回の上演では、ノット自らハンマーフリューゲルを演奏して通奏低音を担当する。 「指揮と通奏低音の両方を担当するのは若い頃からよくやっていました。チェンバロでなくてハンマーフリューゲルを選んだのは、モーツァルト後期のオペラにより向いた音色だからです。通奏低音を弾くとその分仕事量は増えますが、音楽的に全体の構想を追え、大きな流れを作ることができるのでとてもいいのです。みんなと一緒に働いているところを見せることで、他のメンバーとの一体感も生まれますし」 「モーツァルトの音楽はすべてオペラティック」だと語るノット。「オペラをやってみて初めて、モーツァルトの交響曲も協奏曲も理解できる」という。モーツァルトという作曲家の存在自体も、この半世紀で「神のように崇められる存在から、より人間的で身近に感じられるようになってきた」。 長年にわたってモーツァルトを肌で感じ、向き合ってきたノットの真髄が体験できる《コジ》。とびきりの体験になることは、間違いなさそうだ。interview ジョナサン・ノットJonathan Nott/指揮©K.Miura《コジ・ファン・トゥッテ》こそ演奏会形式に適したオペラなのです取材・文:加藤浩子

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