eぶらあぼ 2016.10月号
211/233

CD最近のリリースで聴くチェリスト堤剛の至芸文:寺西 肇※以上3点、すべてマイスター・ミュージックよりリリース『アニバーサリー〈祝う会〉のための6つの作品』堤 剛(チェロ)須関裕子(ピアノ)MM-2153¥2500+税『オリオン』堤 剛(チェロ)須関裕子(ピアノ)MM-2113¥2914+税『アンコール~演奏活動60周年記念盤~』堤 剛(チェロ)野平一郎(ピアノ)MM-2060 ¥2914+税 今年で演奏活動66年目を迎えたチェリストの堤剛は、日本楽壇における“レジェンド”だ。齋藤秀雄、ヤーノシュ・シュタルケルの両巨匠に学び、1963年にカザルス国際コンクールを制するなど登竜門で実績を重ね、国際的に活躍。桐朋学園大学の学長を務めるなど後進の指導にも尽力、2009年には紫綬褒章を受章した。そんな名匠だけに名盤は数多いが、特に近年の録音は、熟達した“魂の音創り”が光る。 最新録音となる『ドヴォルザーク:チェロ協奏曲』は、今年3月、小林研一郎指揮の日本フィルハーモニー交響楽団と共演したステージのライヴ収録。堂々たる骨太さの一方、音楽の襞も余さず掬い取る繊細さをも兼ね備えた、気遣いが行き届いた名演に仕上がっている。 特に近年、この作品においては性急に過ぎる演奏も多い中、全体的にゆったりとしたテンポ取りを選択。そのことが、フレージングの美しさを、いっそう際立たせる。そんな堤の精神は、オーケストラのメンバーにも確実に波及。例えば、木管楽器やホルンによるソロひとつにも、「堤の痕跡」が聴いて取れる。それどころか、まだソロが登場していない、第1楽章の前奏部分にも彼の音楽が感じられるに至っては、協奏曲の演奏も決して「ソロ対オーケストラ」ではなく、紛れもないアンサンブルの構築なのだと、再認識させられる。近年リリースされた3枚の名盤 ここで、堤の円熟ぶりを聴くことのできる近年の名盤を改めて紹介したい。まず、10年3月に発表した演奏生活60周年の記念盤『アンコール』はタイトルの通り、アンコール・ピースに相応しい、10の佳品を収録。盟友のピアニスト・野平一郎の共演を得て、メンデルスゾーンなど、チェロとピアノのためのオリジナルの古典作品から三木稔「森よ」といった新作、さらにガスパール・カサドや待望の新譜は、小林研一郎&日本フィルとのドヴォルザークグレゴール・ピアティゴルスキーら過去の名チェリストによる編曲まで、古今東西の旋律が、堤の深みある音色によって結び付けられ、共鳴してゆく。 12年3月発売の『オリオン』では、パートナーに若手ピアニストの須関裕子を選んだ。「一緒に弾いて、大いに触発された」との当時70歳の重鎮の言葉は、しなやかな感性をいささかも失っていないことを物語る。そして、「ひとつの楽句で7通りには弾ける。そのうち、一番良いものを選べ」との師・齋藤の言葉を胸に臨んだシューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」。あるいは、次々に新たな奏法を現出させてゆく20世紀作品など、自身の演奏家人生もつぶさに反映。チェロ作品の「楽しさ」を伝えることも忘れない。 さらに、同年9月7日にサントリーホール ブルーローズで行われた「70歳を祝う会」をライヴ収録した『アニバーサリー』(13年5月リリース)は圧巻だ。湯浅譲二、一柳慧、野平一郎、外山雄三、西村朗、細川俊夫という現代日本を代表する6人の作曲家たちが、この日のために新作を用意。堤は、全く異なる手法や構成、雰囲気を作品ごとに的確に捉え、見事に弾きこなしてゆく。そんなわが国の演奏史における、ひとつの“事件”を、この録音は現場の生々しい空気感と共に、届けてくれる。 74歳にして、なお若者のように瑞々しい感性を武器に、多彩な作品へと対峙する“レジェンド”。これからも、ステージや録音を通じて、数多くの名演を生み出して、我々の耳と感性を刺激し続けてくれるに違いない。CD『ドヴォルザーク:チェロ協奏曲』堤 剛(チェロ)小林研一郎(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団マイスター・ミュージックMM-3088¥3000+税9/24(土)発売220

元のページ 

page 211

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です