eぶらあぼ 2016.9月号
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70ユリア・フィッシャー(ヴァイオリン)遂に12年ぶりの来日公演が実現!文:飯尾洋一『メトロポリス』振付にも注目! SF映画の金字塔を舞台化文:乗越たかお10/15(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール問 ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040 http://www.japanarts.co.jp他公演10/16(日)トッパンホール(完売)11/7(月)~11/30(水) Bunkamura シアターコクーン 9/3(土)発売問 Bunkamura 03-3477-3244http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/16_metropolis かつて天才少女として世を席巻したヴァイオリニスト、ユリア・フィッシャーが、この10月に久しぶりに日本を訪れる。2003年と04年以来となる、12年ぶりの来日公演が実現する。 ユリア・フィッシャーは11歳で参加したユーディ・メニューイン国際ヴァイオリン・コンクールをはじめ、これまでに8つのコンクールに参加して、そのすべてで優勝を収めたという逸材。しかも8つのコンクールのうち、3つはピアノ部門での栄誉だったというのだから驚く。08年にはひとつのコンサートでサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番とグリーグのピアノ協奏曲の両方でソリストを務めるという離れ技を披露した。 今回の来日リサイタルでは、独奏者としての評価も高いマルティン・ヘルムヒェンのピアノと共演し、ドヴォルザーク「ソナチネ」、シューベルト「ソナ 「原点にして頂点」と言われ、制作から90年を経た今もなお新鮮に語り続けられるSF映画の金字塔、それがフリッツ・ラング監督の『メトロポリス』である。勝手に切られて散逸状態のフィルムの完全版を復元しようと、今も世界中の映画ファンが執念で収集している。それくらい人を魅了する作品が舞台化される。 描かれるのはディストピア。夢と希望ではなく暗黒面に満ちた未来都市である。演出は、行き詰まった世界における人間模様を数多く描いてきた串田和美。出演も、舞台で抜群の演技力を発揮する松たか子に、演技はもちろん世界一流の振付家とのダンスの協働も多い森山未來、またジャンル横断の存在感あふれる飴屋法水と多彩な顔ぶれだ。 特に振付は、いま最も注目されている山田うんである。原作となる映画でダンスは重要な位置を占める。クライマックスでアンドロイドのマリア(人間の女性の姿でだが)が当時盛り上がっていチネ第1番」、ブラームス「ヴァイオリン・ソナタ第3番」を演奏する。ドヴォルザークとシューベルトによるヴァイオリンのためのソナチネが2曲並んでいるところに意外性を感じる。前半はともに親しみやすく平明な曲想を持った作品だが、後半のブラームスでは一転して作曲者晩年の憂愁と諦観が立ち込めるという興味深い構成になっている。 成熟した大人の音楽家となったユリア・フィッシャーが、いったいどんな音楽を聴かせるのか。期待に胸が躍る。たドイツ表現主義のダンスを踊るのである。他にも大勢の労働者が、ベルトコンベアで運ばれる工場製品のように集団で進んでいく有名なシーンなどは群舞のようだ。これらのシーンが舞台でどうなるかはともかく、『春の祭典』など群舞とソロの両面で評価が高い山田の力量が十分に発揮されるだろう。 ラングの作品は、第一次大戦敗戦後、ナチスが急速に勢力を拡大していたドイツで作られた映画だ。ユダヤ人であるラングはいち早く訪れる世界を予見していたのかもしれない。世界がキナ臭くなり、ナショナリズムを利用して力強く未来を語る指導者の熱が徐々に浸透している現代の我々にとって、この舞台は人間の本当の尊厳は何かを問い直すものとなるだろう。©Felix Broede松 たか子森山未來飴屋法水山田うん ©宮川舞子串田和美

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